12月20日に米上下両院が税制改革法案を可決し、成立が確実となった。これを受けて19日の米国債券市場で、米10年債利回りは一時2.47%をつけて10月につけた水準に接近した。ここはひとつの節目といえる。20日には2.5%台をつけてこの節目を抜けてきた。今年3月につけた2.6%が次の節目となる。
FRBは今月のFOMCでも利上げを決定したが、米国債の利回りはほとんど上昇する兆しをみせていなかった。しかし、ここにきて再び動意を示してきた背景にはいくつかの要因が絡んでいる。
19日の米債下落の要因としては、税制改革法案が可決・成立したとなれば、それによる経済効果を期待してのものとの見方もある。しかし、現実にはあまりその効果は期待ではないとの見方も強い。むしろ、減税分の負担が意識されたのではなかろうか。それは結局、米国債の増発によってカバーされる可能性が強く、米国債の需給面が意識された。
それともうひとつ大きな要因があった。それは19日から20日にかけて、同日に欧州の国債利回りも米国債同様に大きく上昇していたことである。むろん、ドイツや英国の国債は米国債との連動性は高いものの、欧州の国債下落の背景は米国債以外のところにあったことも注意すべきかと思われる。
欧州の国債下落の背景のひとつは、ドイツ政府の来年の債券発行予定額は1470億ユーロとなり、特に30年債が増発される事を嫌気したものであった。しかし、ドイツなど中核国だけでなくイタリアなど周辺国の国債利回りの上昇が大きくなっていたのは、別の理由があった。それはECB関係者の発言によるものであった。
11月22日にECBのクーレ理事(フランス出身)は、インフレが回復軌道に戻ると政策担当者らがより楽観的になる状況で、来年は債券購入よりも金利を重視する方向で金融政策のガイダンスを修正することになりそうだと語った(ブルームバーグ)。
ドイツなどに比べてより中立的でドラギ総裁に近いとされたクーレ理事のこの発言により、ECBがより正常化を意識し始めていることが明らかになった。ここに他の委員からの発言が加わったのである。
スロバキア中銀のマクチ総裁は「現在、議論は資産の購入から、将来的な金利の上げ下げへとシフトしている」と話した。エストニア中銀のハンソン総裁も「金利を含めた金融政策のさまざまな面について注意をしてもらうよう市場と対話することが、今後数か月で考えていくべきことだろう」と指摘した(ロイター)。
ドイツ連銀のワイトマン総裁はこれまで、ECBは量的緩和について完全な終了時期を明示すべきだとの従来の見解を繰り返してきた、これは主流派ではないとの見方も強かったが、マクチ総裁、ハンソン総裁、そしてクーレ理事の発言内容からみると、来年9月まで延長した資産買入についての再延長は考えておらず、来年は利上げを視野に入れてそのタイミングを計ることが意識され始めていることが伺える。今回の欧州の国債が売られた背景は、ECBが利上げも意識しつつあることを察知してのものではなかろうか。
米国債と欧州の国債はタイミングを同じくして売られたが、それぞれ売られた要因は異なっていた。しかし、米国債とドイツ、英国の国債の連動性が高いことも確かであり、今後はそれぞれの要因が相まって、さらに利回りが上昇してくる可能性がある。むろん、今後の物価動向も意識する必要もある。ただし、これまでおとなしかった分、年末で流動性が低下している面もあり、変動幅が大きくなる可能性がある。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。