旅行の楽しさは「点」ではなく、「面」ですることにある

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

以前、こちらの記事でも書いたのですが私は旅行が大好きです。旅行の思い出は、目的地や楽しみにしていたイベントよりも移動中やホテルで過ごす時間の方が楽しかったと記憶されることが多く、なんとも不思議です。旅行の写真を見てみても「このホテルのラウンジはすごい雰囲気が良かった」とか「夕焼けがあまりにもキレイだったな」「現地の人と会話をして楽しかったな」など、なぜかメインディッシュである観光地以外の部分に楽しい思い出を感じます。

「旅行なんてつまらない。お金もたくさんかかる。今はYouTubeで動画を見られるからいかなくていい」そのように言う人も少なくありません。旅行の面白さを知らない人は、たいてい旅行を「点」ではなく「面」でやっていると思います。「点→面」へと旅するだけで、旅行はたちまち輝きを放つエンターテイメントになるでしょう。

スペインの田舎町での忘れられないハプニング

面で旅したエピソードをお話しましょう。昔、奥さんとスペイン旅行に行った時のことです。最初にバルセロナにいった私は少しがっかりしていました。バルセロナのサグラダ・ファミリア、グエル公園といった名所を訪れて「なんだこんなもんか。ガイドブックに乗っているそのままだな」と軽い失望と退屈を感じていました。エスカレーターに乗るように機械的に名所を回っていたのですが、歴史的な背景も特に持ち合わせなかったからか、早々に市内観光に飽きてしまいました。

バルセロナを離れ、レンタカーで移動を開始してから旅に強烈な面白さが宿りました。コスタ・デル・ソルへ向かう途中の車からの風景はまさに荒野。荒々しいまるで月面のような険しい岩肌にさんさんと降り注ぐ陽光に輝く美しさに、私は思わず息を呑みました。険しさの中にあるとてつもない自然の美しさです。これは日本にはないものです。日本はどこへいっても道路は走りやすく、きれいに整備されているのでスペインの田舎道高速道路には非日常感がありましたね。車で移動しながら目的地に立ち寄り、そしてまた車で走り出す…。

これは飛行機で点から点へピンポイントで移動していたこれまでの旅行ではなく、旅先の地域全体を味わい尽くす「面としての旅行」です。夜になると周辺はまっくら。日本と違って等間隔で街頭があるわけでもありませんから、車のライト以外は静寂と漆黒の闇に包まれます。心細さと闇を切り裂く自動車のヘッドライトの力強さにありがたさ。そして頭上を埋め尽くす零れ落ちそうな満点の星空に心を奪い取られます。悠久無限の宇宙に想いを馳せる、という経験をしたのはこの時が初めてです。

そして一生忘れることがないハプニングがありました。

真っ青な湖を右手に山道を車で走っていた時のことです。「車を停めて湖をバックに記念写真を撮ろう」そう思い、車を停めようと空き地にハンドルを切った瞬間、「ガクン」と重力を感じました。気がつけば前日の大雨でぬかるんだ泥に車の右前輪のタイヤを取られ、前にも後ろにも動けなくなっていました。走っていたのは山道ですから、他の車も通っていませんし、携帯もなく、近隣の街にも歩いていける距離ではありません。これはヤバイと思ったのですが、道中に道路工事をしていたことを思い出しました。自分たちにはどうしようもない。もう彼らに助けを求めるしかない。私はその場に奥さんを残して工事現場へ歩きだしました。

工事現場についた私はドリルや重機を手に持って働いている人に英語で助けを求めました。しかしぜんぜん通じません。ここはバルセロナやマドリードではなく、スペインの田舎、スペイン語しか通じないのです。しかし、そこは人間同士です。身振り手振りでコミュニケーションを取った結果、車がぬかるみにハマり困っていることを伝えました。彼らは工事の手を止め、高さ4メートルはあろうかという大きなトラックに乗るように言われ、事故現場に戻ります。現場で待っていた奥さんは私が巨大なトラックに乗って現れたのを見て、あまりにもへんてこな画に思わず笑いだしてしまいました。

現場に戻って私は驚きました。そこには見知らぬたくさんの人が動かなくなった車の周りを取り囲んでいたのです。私が工事現場へ助けを求めに行っている間、通りかかった車が周辺の住人に声をかけて人が集まってきたようです。彼らは車を大型トラックにつなぎ、ぬかるみから引っ張り出してもらいました。その様子を見て10数人の人たちは拍手喝采、このときほど人のありがたさに感謝したことはありませんでした。何度もお礼をいってその場を去ります。ほんの一時間くらいの出来事でしたが、スペインの田舎町で起こったこのハプニングと人心交流は一生忘れることがないでしょう。

旅行の楽しさは現地の文化を体験することにある

旅行の楽しさの本質、それは観光ガイドの話を一方的に聞くことでも、あらかじめきめたコースを見て回ることではなく、現地の文化を体験することになると思います。

スペインの田舎町で体験したドライブとハプニング以外にも、パリでいきなりストライキが起きて電車を降ろされたこと、道を歩いていて何度も物乞いにあったこと、肉屋のおじさんから「カメラを盗まれないようにね!」とウインクされたこと、そして夜電車で移動中に銃で武装した軍隊?が突然ぞろぞろと電車内に入ってきて度肝を抜かれたこと、ホテルのスピーカーから魔女の宅急便のBGMが流れ、パリジャンが口ずさんでいたことなど、日本では味わえないようなたくさんの異文化を体験することが出来ました。そしてこうした異文化は観光地そのもので味わうものではなく、その移動中や何気ない風景にキラキラと落ちて輝いていることがほとんどです。現地の人は観光地にいません。観光地にいるほとんどは観光客なので、真の異文化交流ではないと思うわけです。

旅行を楽しいものにしたければ、点から点へ観光地を見て回るだけの楽しみ方を止め、面としてそのエリア全体を堪能するやり方をオススメします。きっと、ずっと記憶に残る旅の醍醐味を味わえるでしょう。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。