家入さん、金融包摂と評価経済の先に、社会はどうなるんですか?

駒崎 弘樹

あなたはこれまで、クラウドファンディングを使ったことがありますか?

アートや、新しいテクノロジーを使ったガジェット、あるいはNPOのような福祉の分野まで、クラウドファンディングというツールが資金調達の可能性を広げ、社会に多くの変革をもたらしてきました。

そんなクラウドファンディングのムーブメントを日本で作ってきたひとり、家入一真さん

クラウドファンディングのCAMPFIRE、ソーシャルグッド特化型のGoodMorning、身近な友人・知人を小額支援できるフレンドファンディングのpolcaなど、金融とテクノロジーを組み合わせたさまざまなサービスを立ち上げています。

そんな家入さんが目指すのは、「すべての人が声を上げられる社会」。どんな人でも、お金や応援を集め、挑戦できる……そんなビジョンです。

家入さんの目指すビジョンの背景や、そこに込められた想いについて聞きました。

プロフィール

株式会社CAMPFIRE 代表取締役社長:家入一真(いえいりかずま)

1978年生まれ、福岡県出身。 「ロリポップ」「minne」などを運営する株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業、2008年にJASDAQ市場へ上場。

退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役社長に就任。他にも「BASE」「PAY.JP」を運営するBASE株式会社、数十社のスタートアップ投資・育成を行う株式会社partyfactory、スタートアップの再生を行う株式会社XIMERAなどの創業、現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開なども。

インターネットが趣味であり居場所で、Twitterのフォロワーは17万人を超える。

駒崎:家入さんは、若くして起業してたくさんの事業を起こして、連続起業家なんて呼ばれてましたけど、最近はクラウドファンディングのCAMPFIREに力を入れていますよね。

CAMPFIREの「すべての人が声を上げられる社会」というスローガン、とてもよいと思っていて。社会的強者だけでなくて、ニートとか行き場のない人とか、どんな人でも声を上げて、応援やお金を集められるというビジョンですよね。

そういう、いろんな人を社会で包み込んでいこうという考え方を「社会包摂(ほうせつ)」と言ったりしますが、家入さんの場合、その社会包摂を、クラウドファンディングのようなお金の流通の仕組みと組み合わせて実現していこうとしているのが印象的です。

そういう考え方をするようになったきっかけはなんですか?

 

家入:僕は21歳でペパボ(※)を起業したんですが、実は中学二年生のときにいじめなどをきっかけにして学校に行かなくなって、10代後半はほとんど家に引きこもっていたんですね。

※ペパボ…「ロリポップ!」などのレンタルサーバー事業を運営する株式会社paperboy&co.のこと。現在のGMOペパボ株式会社。

もともとそんなに豊かな家でもなかったんですが、父親が自営業で自己破産して、働かなければいけなくなって、それから就職して、起業して、という感じなんですけど。

過去の自分の辛かった経験を振り返ると、自分と同じような課題を抱えた人がこの世の中にたくさんいるんじゃないか、と思うんです。

家入:学校や会社からこぼれ落ちる人に対して、自分が10代だったときに「こんな場所があったらよかったな」という場所を自分で作りたくて。それでペパボを作ったあとに、行き場のない人を支援する駆け込みシェアハウスのリバ邸の活動をはじめました。その中で、社会包摂という言葉を知ったりして。

で、そういう活動をするなかで、ちょうど、フィンテック(※)の盛り上がりがあって。フィンテックって、要は、お金をテクノロジーでアップデートしようという動きなんです。お金を使ったり、投資したり、誰かに渡したりすることを、銀行とかの金融機関に頼るのではなくて、ITで便利にしていこうっていう。

※フィンテック…fintech。「finance(ファイナンス)」と「technology(テクノロジー)」を掛け合わせた言葉

社会としてこぼれ落ちる人の居場所を作る一方で、そういう人たちを取り巻くお金についても合わせて考えないといけない、という問題意識があったので、フィンテックがそこをつなぐヒントになるんじゃないかなと思って。社会包摂の次に、フィンテックをバックグラウンドにして「金融包摂」みたいなアプローチがあるんじゃないかなと。

 

駒崎:大きな資本を持っている人ががっつり儲ける、みたいなお金のあり方じゃなくて、小額のお金が、テクノロジーの力を借りて、人と人の間を流通していって、弱い立場の人もその流れのなかに加わることができる、というイメージでしょうか。

著書のタイトルにもなっていた『なめらかなお金がめぐる社会』というのも、そういう考え方をあらわしたものなんですね。

家入:はい。それで今は、民間が金融包摂をどのようにプラットフォームとして実現するかというのを、クラウドファンディングのCAMPFIREや、個人でECサイトを作れるBASEで考えているという感じです。

クラウドファンディングCAMPFIREのサイト。常時1000件以上のプロジェクトが支援募集を行っている。

駒崎:ソーシャルビジネス・NPO業界も、フィンテックの影響は大きくて。

たとえば最初に事業を立ち上げるときのタネ銭問題というのがあります。僕がフローレンスを立ち上げたのはもう14年前ですけど、そのときは事業を始める資金がなかったんですよね。

だから、いろんな助成金の申請書を、20枚とか30枚とか書いて、どうにか700万円集めて事業をはじめて……みたいにやってたんですけど。でも、今だったらたぶん、クラウドファンディングで700万集められるんですよね。

それに応援してくれる人たちももついてきてくれるし、メディアも注目してくれる。きっと、スムーズに事業が立ち上がったんじゃないかなと思うんです。そのときの自分からすると、フィンテック、クラウドファンディングの存在は非常に大きいなと思います。

今はフィンテックとか金融包摂とか、世の中がどんどん進んでますけど、たとえば最近驚いたのはpolcaで。家入さん達が作ってる、お金を身内に送って簡単に応援できるサービスですね。知り合いの中に閉じた、小さなクラウドファンディングのような。

たとえばフローレンスの社員も、本業とは別に動画作成の勉強をしている社員がいて、スクールに行くための資金集めにpolcaを使ったりしました。数万円とかですね。実際に応援したら、めきめき動画作成スキルがあがって、広報で使う動画とかをサクッと作れるようになって、それをネットに上げたら何万回も再生されるようになって。

実際にフローレンススタッフの石川がpolcaを使って支援を集め、動画制作のスクールに通っています

駒崎:これって、本人からすると意思表明して自分の希望をかなえるきっかけとしてすごくいいし、支援する側からすると、応援することでその人の潜在能力を開花させられる。

単にマイクロクラウドファンディングというだけでなく、応援の輪を広げられる、その人のポテンシャルに気づかせてくれるツールでもあったんだと思って、感動したんです。

家入:ありがとうございます。僕たちはpolcaをフレンドファンディングと呼んでいるんです。

いわゆるクラウドファンディングの場合は、大義名分が求められる気がしてしまって、不特定多数の人に大きな声でお願いしてたくさんの支援をいただくもの、という印象がありますよね。

だから炎上が怖いとか、0円で終わったら恥ずかしいとかいう気持ちも生まれやすい。本当はもっと気軽に使ってほしいんだけど、「クラウドファンディングかくあるべし」というイメージがあって、なんというか、なめらかになっていない

社内の誰かが誕生日だからプレゼントをあげようとか、友達が留学に行きたいのをカンパで応援するとか、リアルなコミュニティをベースにした、表に出ないものとしてのクラウドファンディングもあっていいんじゃないかなと思って作ったんです。

実際にそれを目指して運営してますし、そう使われてもいます。

ところが一方で、polcaで応援を集めている企画がTwitterでシェアされて、フォロワーの人に応援してもらうという動きも出てきて。Twitterのフォロワーという、実際に会ったことはないけど全く知らない人でもない、緩やかな人間関係のグラデーションの中でpolcaを拡散して使う、みたいなことは、僕らも想定していない使われ方でした。

さらに面白かったのは、そこに、polcaのプロジェクトを検索して無差別に500円支援する「ポルカおじさん」も出てきたこと。

しかも「今月もpolca支援しすぎてお金ない」とか言ってて(笑)

Twitterでは「#polcaおじさん」のハッシュタグで盛り上がっている

駒崎:ポルカおじさんが、polca貧乏(笑)

家入:polcaはほんとに簡単で。クレジットカードの手数料も僕らが払っているので、500円支援したら500円がそのまま相手に渡るんです。それで、支援してくれてありがとうございます、お礼に絵葉書おくりますね、とか、ゆるやかな返礼品もあって。

お金を送ったり受け取ったりするコストが圧倒的に下がっているんですよね。たとえば「この人面白い人な」という人がいて、ちょっと応援したいと思ったときに、わざわざ電車に乗ってお金を手渡しには行かないけど、polcaでの支援なら簡単にできる。

全然会ったことないけど、面白そうだから500円だけ応援しよう、みたいなやりとりがたくさん出てきた感じですね。

駒崎:polcaを見ていると、応援することのハードルが下がったし、しかもそれが楽しい、という感じになっている気がしますね。クラウドファンディングもそうですけど、応援する社会を作る一助になっていると思うんです。

日本って、そんなに、応援をみんなでするという社会でもないような気がするんです。

たとえば僕は昔アメリカに留学していたんですけど、会う人会う人「グッジョブ!」みたいな感じで、「君のやってることが成功か失敗かは知らないけど、チャレンジする姿勢はいいね」みたいにポジティブに支援してくれるような空気だったんです。

でも日本では「なにがんばってるの?寒いんだけど」みたいな、すぐ揚げ足をとる人がけっこういる。すごく空気が違うよなと。

アメリカもたくさんよくないところはありますけど、この「グッジョブ!」な文化はいいな、作りたいなと思っていて。

polcaとかを見ていて、それに少しずつ近づいてきている、少なくともあるコミュニティに関してはそういうことが恥ずかしげなくやられているっていうのは、すごく良いなと思ってます。

家入:「意識高いね」みたいな揶揄がすごく多いですよね。僕もそれが本当に嫌で。別に、意識高くていいじゃないですか。

がんばっている人を馬鹿にして、人の足を引っ張っているつもりが、結局その足って自分の足でした、自分で自分をダメにしてました、みたいなことって全然あると思っていて。

逆に「グッジョブ!」と言いまくっていると、自分も誰かから「グッジョブ!」と言われる気がします。

 

駒崎:本当にそう思いますね。僕なんて昔めっちゃ意識高くて、めっちゃ痛かったんですよ。僕は学生時代にITベンチャーをやってたんですけど、まずその時点で意識高いし、しかも名刺に「社長」じゃなくて「CEO」とか書いてた。当時はわざわざ「CEO」って名乗る人なんていなくて(笑) 相当イキってる、調子に乗ってるわけです。

それで「御社のマーケティングとウェブはやはり不可欠で……」とか、知ったようなことを言うわけですよ。もう、最低ですよ。最低の黒歴史(笑)

でも、そういうことがあったから今がある。そこで、中小企業のおっさんみたいな人に「お前の言ってることよくわかんねえよ」とか言われて、ボコボコにされて、それでコミュニティごとにいろんな言語があるのだということがわかって、じゃあ相手によって言い方を変えよう、となって今がある。そういうのって学習のプロセスなんですよね。

それを押さえつけるおっさんたちって本当に老害で。若者にはイキらせておけばいいんです。イキらせながら、社会全体で育てていけばいいわけで。

意識高い、イキった痛いやつが100人いるなかで、2人くらいはイノベーションを起こしてくれるわけですよ。そこをそもそも100人にイキらせないみたいな言説ってほんと害悪だなと思っていて。

だから僕はpolcaおじさんで良いと思うし、イキった若者にも「いいぞ、イキっていけ!」と言うおじさんになりたいんですよね。

家入:本当にそうですね。

polcaのコミュニケーションは、最近よく話題になる評価経済(※)ともつながるんじゃないかと思ってるんです。polcaは、コミュニケーションとともにお金が流通する社会を作る、というのをテーマにしていて。

※評価経済…その人の信頼度や人気などといった評価が何らかのかたちでお金に変わる経済活動。SNSのフォロワー数など、インターネット上での活動や評価がその指標となることが多い。

テクノロジーによってお金の流通コストが下がると、お金を「グッジョブ!」みたいなものと同時に流通できる、お金に感情をのせてそのまま流通できる社会になっていくんじゃないかなと。

これが、評価経済の一部なのではないかと思ってるんです。お前がやってることいいね!というのを、本当に気軽に送れる社会。

 

駒崎:最近、評価経済を裏付けるサービスも出てきてますよね。たとえば個人が擬似上場できるvaluとか、個人の時間を売り買いできるtimebankとか。

こういう、評価されて金銭的価値が可視化され、みんなで共有されるなんてことは、これまでは企業でしかありえなかったけど、個人で起こるようになってきたのって、ものすごく新鮮だなと。

 

家入:僕自身、valuの株主ですけど、評価をお金にかえるということが、個人レベルまで下がってきていると思いますね。

従来はお金でサービスやモノを買っていたけど、たとえばTwitterのフォロワーが10000人いたらサービス優遇とかあったりしますよね。評価がお金やサービス、モノと交換可能になってきている感じです。

「valu」という独自の株式のようなものを売り出し、資金を集めることができるvalu。仮想通貨ブームも相まって、評価経済の象徴として人気を集めた

 

家入:そう思う一方で、怖さとか、それでいいのかという感覚も自分の中に持ち合わせていないとまずいなと思っていて。

駒崎:どういうことですか?

家入:いまはまだ、昔からのフォロワーが多い人が力を持っていて、自分の評価を切り売りしてお金を作っているような状態なんですよね。もともと有名な人、現時点で評価を持っている人が強い。

持つもの、持たざるものが二極化していくだけなのでは、という視点もあって。

今後は有名無名に関わらず、評価経済のサービスやプラットフォームを利用して、自分のやりたいことを実現できるようになっていくといいですね。

駒崎:評価経済で、個人もちゃんと包摂できて、これまで無名だった人がより滑らかに才能開花できる、という社会になったら素晴らしい。でも実は評価経済はいっそう勝ち負けがはっきりして二極化するもので……となるんだったら、それが良いことなのかという話ですよね。

家入:はい、そこは自覚的になっていかなければいけないかなと思ってます。

(了)


さまざまなテクノロジーの進歩により、お金の流通のしかたが変わり、そこにコミュニケーションや想いが乗っていく……そんな社会が、すぐそこに来ているのかもしれません。

自分の持つお金が、誰にどんな価値をもたらしうるのか、改めて考えてみるのもよいのではないでしょうか。

参考図書

寄付という観点から、社会におけるお金の価値についてまとめています。読んでいただければ、寄付は未来への投資である、ということがよくわかるかと思います。

 

家入さんの、金融包摂をテーマにした書籍。金融包摂という考え方に至った背景がていねいに説明されています。

 

 

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編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年12月25日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。