「限界費用ゼロ」の脅威に打ち勝つには?

Wikipedia「限界費用」より:編集部

個人消費が伸びなくなってずいぶん経ちます。実質賃金が低下していることも要因の1つでしょう(直近高値の85%程度)。

しかし、賃上げをしても個人消費が簡単に回復するとは私には思えません。
最大の原因は、消費者にとって「限界費用ゼロ」サービスが浸透しつつあることだと考えます。

「限界費用」というのは、数量の増加に応じて必要な費用のことです。
生ビール1杯500円とすると、2杯目を飲むための費用は500円、3杯目も同じく500円というふうに、限界費用は一定です。

1000円の商品を2個買えば100円引き、3個買えば200円引きというシステムもあります。こういうシステムでは、数量に応じて限界費用が少なくなっていきます。スーツ2着目1000円は、その極端な例です。

ところが、動画のストリーミング配信などは、月々の支払額が決まっているので、ユーザーとしては見る動画の数に対応する限界費用は発生しません。

アマゾンプライム会費が月々300円強であれば、10本観ようが20本観ようが、月会費負担は変わらず限界費用はゼロです。従来であれば、新たなDVDを借りるたびに発生したレンタル代金(限界費用)がゼロになってしまったのです。

余談ながら、動画のストリーミング配信は作品の作り方も変えてしまうでしょう。出だしでユーザーの心を掴まないと、さっさと別の作品にチェンジされてしまいますから。「レンタル費用を払ったのだから我慢して見続けよう」という人はいないのです。

ストリーミング配信よりも破壊力が強いのが、ネット配信です。Wi-Fi環境や通信料というインフラコストさえ支払っておけば、ユーチューブ等で「限界費用ゼロ」で動画を観たり音楽を聴いたりすることができます。昨今は、スポーツの生中継もネットで観ることができるようになりました。

飲みに行く、カラオケに行く、ゲームセンターに行く…等々の行為には、必ず「限界費用」が発生します。

従来であれば、「暇だから飲みに行こうか」という人がそれなりにいました。

しかし、新たな出費をして「飲みに行く」には、「限界費用ゼロ」サービスという選択肢を敢えて捨てさせるくらいの魅力が必要な時代になったのです。

映画を観に行く、本を買って読む、というのも同じです。

「限界費用ゼロ」サービスが蔓延すれば、新たにお金を使う行為はすべて「割高」になってしまいます。

こうなると、個人相手のサービス業の中には、固定費を賄うために単価を下げるか廃業するかしかないところがたくさん出てくるでしょう。

しっかり生き残ることができるのは、「割高」な出費をしてでも足を運びたいという付加価値の高いサービスのみです。

以前、生の演奏やスポーツはスマホより付加価値が高いと書きました。それ以外にも、付加価値の高いサービスを考え付くことは十分可能なはずです。

スマホを凌駕するライブの力

このように、現状の横並びから脱して、より付加価値の高いサービスを提供することが重要です。

多数の人口を擁する都市部であれば、珍しい商品に特化するのも一つの方法でしょう。

鉄道模型を趣味とする人の確率が1万人に1人だとすると、10万都市では10人しかいませんが、1000万都市であれば1000人存在します。
競合店が少なければしっかり収益が出せるかもしれません。このようなバックグラウンドも加味しつつ、「限界費用ゼロ」サービスに負けないサービス提供をすることが重要です。

ネットは別として、動画や音楽のストリーミング配信を利用している人の割合はそれほど多くはありません。
「限界費用ゼロ」サービスの脅威が本格化するのはこれからです。

それまでに対策をとれるかどうかが、企業の存廃を決することになるでしょう。

荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年1月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。