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生え抜き役員に“冬の時代”がやってくる!

荘司 雅彦

日本企業の一般的な考えは、平社員として入社して課長、部長と出世の階段を登り、役員を経て社長になるのが「出世レース」です。

新入社員の中には、「絶対に出世して最低でも役員になりたい!できれば社長になりたい!」という意欲に燃えている人が一定割合います。最近は少数派のようですが…。

しかし、会社法は、(昔の商法の一部だった時代から)取締役と従業員を明確に区別しています。
取締役というのは、出資者である株主から委任を受けた「経営のプロ」で、任期も決まっています。

それに対して従業員は業務の執行者で、多くの従業員は労働法の保護を受けます。
解雇規制が厳格に定められているわが国では、指名解雇はほとんど不可能。
整理解雇でさえ厳しい四要件が課されています。

株主と取締役は、依頼者と弁護士と同じ委任契約上の委任者と受任者の関係です。
依頼者が弁護士をいつでも解任できるように、株主はいつでも取締役を解任できます(金銭賠償が必要な場合もありますが)。

任期が終了すれば、(再任されない限り)その間の実績如何にかかわらず任を解かれます。
委任事件が終了したら依頼者と弁護士の関係が終わるのと同じです。

このような会社法の本来の理念が歪められ、取締役が生え抜きばかりになってしまった背景には「株式の持ち合い」がありました。グループ会社同士や金融機関が大株主になり、お互いの生え抜き同士を取締役に選任していたのです。

しかし、「株式の持ち合い」が激減し、コーポレートガバナンスコードが策定された今日、取締役は株主の意向を尊重しなければならなくなりました。

私は、シャープの劇的な復活劇が、多くの会社の生え抜き取締役たちを密かに震撼させていると考えています。
経営陣が、生え抜きから外部の経営のプロに変わったことで、驚くほど迅速に立ち直ってしまったからです。生え抜き役員の経営能力のなさが露呈されてしまいました。

意識の高い他社の株主の中には、役員を外部から招へいしたほうがいいのではないかと思いはじめているはずです。
生え抜き役員のメリットは会社内部の実情を知悉していることだと言われました。

しかし、今やそれは会社経営にとって大きなデメリットです。長年社内にいると、「わが社はこういう会社だ」という固定観念から抜け出せなくなるからです。

また、生え抜き役員は、たくさんの縦の人間関係によってがんじがらめにされています。自分のために尽くしてくれた部下たちを、日産自動車のゴーン氏のようにスッパリ切り捨てることはできません。

神戸製鋼をはじめとする大企業の不祥事の数々は、法律に従うよりも会社を守ることが第一という「内向き志向」も大きな原因のひとつでしょう。

官僚の天下りが厳しい目で非難されるように、従業員からの役員への“天登り”が株主の厳しい目に晒される日が来るのは、そう遠くはないと思います。

今のビジネスパーソンに必要なのは、「自分が経営者であったらどうするか?」という鳥の視点と、「現に課された仕事を迅速的確にこなすにはどうすればいいか?」という虫の視点の二つの視点だと思っています。

一昔前であれば、鳥の視点からモノを言うと「お前のような平社員が考えることじゃない!」と叱られたものですが…(笑)

荘司 雅彦
講談社
2006-08-08

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年1月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。