法王「教会組織」の“正教会”化急ぐ

ウィ―ンの著名な牧会神学者パウル・M・ツ―レ―ナ―氏はオーストリア日刊紙クリアとのインタビュー(1月6日付)で、「南米の司教たちは2019年10月に開催予定の南米汎アマゾン地域シノドス(代表司教会議)で既婚聖職者を正式に公認する決定を下すだろう。(南米出身の)フランシスコ法王はその決定を支持するはずだ。フランシスコ法王にとって最重要の決定となるはずだ」と強調した。

▲バチカンのサン・ピエトロ広場でクリスマス礼拝するフランシスコ法王(2017年12月25日、ドイツ公営ZDF放送から)

また、「南米教会の決定は他の教会にも影響を与え、その決定に従うべきだという圧力が高まるはずだ。それを通じ、ローマ・カトリック教会は変わっていくだろう。フランシスコ法王は中央集権的なローマ・カトリック教会体制を克服することになる」と、その意義を説明した。

これまでカトリック教会はバチカン法王庁(カトリック教会総本山)の音頭に合わせて踊ってきた。将来は違ってくるというのだ。それが事実ならば、教会の“革命”を意味する。司教会議の決定が尊重され、世界の聖職者はローマの動向にだけ心を奪われることなく、各国の教会、司教会議が責任をもって決定を下すようになるというのだ。換言すれば、ローマ・カトリック教会の非中央集権体制の確立というわけだ。

ツ―レ―ナ―氏は、「フランシスコ法王と好対照のローマ法王は故ヨハネ・パウロ2世だ。教会の統一を最大の課題とする中央集権者だった。その結果、地方教会の発展は阻害されてきた。教会の現在の停滞はバチカンの中央集権体制が最大の原因だ。フランシスコ法王はその体制を変えていこうとしている。法王曰く『聖霊はローマ(バチカン)だけに働くのではない』ということだ」という。

同氏によると、フランシスコ法王は教義中心の牧会文化から人間とその人間の教会との関係を重視した牧会を育成していこうとしている。具体的には、「罪を強調せず、その痛みに関心を注ぎ、道徳主義に陥ることなく、癒しを優先していく牧会だ。フランシスコ法王は教義主義者ではなく、個々の信者の状況を大切にする羊飼いだ」というのだ。

フランシスコ法王は2016年4月、婚姻と家庭に関する法王文書「愛の喜び」(Amoris laetitia)を発表し、その中で「離婚・再婚者への聖体拝領問題」について、法王は、「個々の状況は複雑だ。それらの事情を配慮して決定すべきだ」と述べ、最終決定を下すことを避け、現場の司教に聖体拝領を許すかどうかの判断を委ねた。

その法王文書が公表されると、保守派聖職者から激しい批判が飛び出していったことはこのコラム欄でも数回、紹介した。なぜ、彼らは法王文書にあれほど厳しく抵抗するのか、最大の理由は、離婚・再婚者の聖体拝領を認めることはカトリック教義に反するからではない。フランシスコ法王がバチカンの中央集権体制から各国教会の司教会議指導の教会体制に移行しようとしていることが明確だからだ(「『法王』に残された時間はあるか」2017年12月27日参考)。

バチカンの非中央集権化とは、ローマ・カトリック教会の“正教会化”ともいえる。正教会では各国の正教会が独立し、主体的に教会を運営する一方、精神的最高指導者としてコンスタンティノポリ全地総主教を置いている。同じように、ローマ法王は世界のカトリック教会精神的指導者に留まり、実質的な教会運営は各国教会司教会議が実施していくという考えだ。

もちろん、教会の改革には時間が必要だ。フランシスコ法王一代で成し遂げることができる課題ではない。フランシスコ法王の課題は次期法王に引き継がれることになる。ツーレーダー氏が予想するように、次期ローマ法王は欧州出身国の聖職者ではない可能性が高いが、これまで最大勢力を有してきた欧州教会の激しい巻き返しが予想される。いずれにしても、南米教会シノドスで聖職者の独身義務の廃止が決定されれば、ローマ・カトリック教会はいよいよ暴風警戒域に突入していくことになるわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。