2018年みかん不作よりはるかに深刻な構造問題

黒坂 岳央

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

みかんの不作がニュースになり、世間を賑わせています。21年ぶりの高値となり、当店肥後庵でも仕入れみかんの原価が高くなっていることをひしひしと実感しています。

さて、世間ではこのみかん不作のニュースを「農業高齢化が問題」「天候に恵まれなかった」「需要が殺到したからか?」などいろんな見方がなされています。みかん不作問題の本質は何か?フルーツギフトを運営する立場からお話したいと思います。

不作の原因は複合的

フルーツが不作になると、世間の需要に供給が追いつかなくなり必然的に価格高騰します。これは今回のみかんに限ったことではなく、いろんなフルーツで起きていることです。例えば昨年2016年の秋に台風が実を落とした影響で梨が高騰しました。収穫数や天候、需要などその他に要因がなくても台風で風が吹くといきなり価格高騰してしまったりするのです。フルーツは工業製品ではなく、自然の中で栽培されるものなのでなかなか供給量とその価格については予測が難しい部分があります。日本農業新聞の記事によると

2017年産は当初から、早生以降は生産量が前年を下回る見通しだった。産地関係者は「近年の天候不順で樹勢が弱まり、着果が少ない。実を付ける期間が長い作型ほど顕著だ」と指摘。そこに10月の台風被害で傷みが多発し、出荷が激減。11月後半以降、全国的な絶対量不足が続く。

引用元:日本農業新聞「ミカン21年ぶり高値 絶対量足りずキロ338円 12月中旬京浜市場」

とあり、今回のみかんの不作は複合的だったことが分かります。これは「表年・裏年」という言葉を使って説明が出来ます。簡単にいうと、みかんというのは豊作と不作を交互に繰り返すもので、たくさん実をつけた表年の翌年はあまり収穫ができない裏年がやってきます(これを「隔年結果」といいます)。もともと、2017年度は裏年にあたるので、11月頃から出回る「早生みかん」の生産量は前年を下回ることは初めから予測がついていました。そこに加えて秋の天候不順と、老木化の更新ができなかったことと様々な要因が重なってのことと同紙は見ています。

キロ338円はどの程度問題か?

例年は250円-300円までを推移していたみかんの価格が、ここへ来て338円になりました。ネットニュースのコメント欄には「これじゃもう買えない」「今年はコタツからみかんが消えてしまう」といった声で溢れています。

足元の卸値高騰は、実際の販売価格にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。年末年始の時期に販売されているミカンは、1個100グラム前後のものが多いです。卸値が1キログラム338円だとすると、小売店での販売価格はおおむね同600円前後になります。

1日に1人がミカンを1~2個食べるとすると、3人家族の場合、50個入りのもの(5キログラム)を買えば2週間は持ちます。となると、小売店での購入価格は3,000円前後。例年に比べると購入1回当たり500~600円の値上がりになります。家計を預かる立場の方にとっては、買い控えの理由になりうる金額です。

問題は2017年度の不作などではない

私は今回のみかん不作について、世間で言われているほどの騒ぎではないと考えています。それよりも問題の本質は生産者の高齢化と生産量の落ち込みの方です。下記のグラフを見てください。滑り台を落ちるように生産量が下がっていることがわかると思います。

データ出典元:農林水産省統計

一年ごとにジグザグしているのは表年、裏年の豊作と不作を繰り返していることを示しています。1973年から2016年までの43年間でもっとも収穫量の多い1975年度の3,270,000トンと、少ない2015年度の777,800トンと比較すると実に最盛期の23%に落ち込んでいることが分かります。1975年の人口は1億1194万人で、2015年の1億2709万人の88%と12%も人口が少ないのです。今より人口が少ないのに収穫量は凄まじく減っているということは、いかに日本人がみかんを食べなくなったのかが分かります。これは農業の高齢化により生産量の落ち込みと、日本人がみかんを食べなくなったことによるダブルパンチと見ることができるのではないでしょうか?

果物離れと言われる今の時代でも、みかんが好きな人は私を含めて数多く存在します。にも関わらず、みかんの収穫量が右肩下がりであることは、みかんが好きな人にとっては嫌なビジョンしかありません。供給量が減ってしまうと必然的に価格が高くなるのは避けられません。そうなると日本の果物は高い、と言われる現状より更に手に入りにくくなることが予想されます。

2017年度はみかんが高くなった!と騒ぐのではなく、マクロで見るともっと深刻な問題が見えてきた気がします。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

※この記事は「MONEY PLUS」掲載の「“21年ぶり高値”よりも深刻な『国産ミカン』の構造問題」に加筆したものです

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。