私がNHK受信料開拓営業で全国トップ3に入った理由とは

尾藤 克之

昨年の秋くらいから、「話し方」に関する書籍が増えたように感じている。それだけ、話すことを苦手と思っている人が多いのだろう。話すことによほど慣れていないと、自分の声に自信が持てないということが少なくない。また、自分の耳で聞いているその声は、相手に届いている声ではない。だから、よけいに話すことは難しい。

今回、紹介するのは『話し方は「声」で変わる』(フォレスト出版)。著者は、島田/康祐さん。東京音楽大学音楽学部音楽学科(声楽専攻)卒業。聖徳大学大学院音楽文化研究科音楽表現専攻(声楽)修了。声のプロフェッショナルでもある。アカデミックをベースに構成された、声の秘訣には“いままでにない新鮮さ”を感じる。

なぜ、音大に進学したのか

――島田さんのキャリアについて説明しておきたい。高校のときに音楽センスが開花し東京音楽大学(声楽専攻)に進学、卒業後は、音楽の教師を目指し大学院に進学した。

「運が悪いというか、大学の卒業のときに地元北海道での音楽教員採用枠がなかったのです。この状況は大学院の修士課程を終了しても変わりなく、採用枠がありませんでした。それならばと、留学費用を貯めるべく、私は海外へ留学することを考え、比較的報酬の良かったNHKの新規受信料開拓営業の仕事を始めることにしたのです。」(島田さん)

「住宅街·工事現場、自衛隊基地の周辺、どれだけいろいろなところを回ったことでしょう。とくに自衛隊基地の周辺を回るときなど、飛行機が行き交うため、大きな声を出さざるを得なくなります。通る声が災いすることもあり、アパートなどを訪問して説明していると、ご近所にも内容が筒抜けになり居留守を使われることもありました。」(同)

――島田さんの通る声が響きわたり「あっ、 NHKの受信料の人が来た。次はウチに来る」と察知されて居留守を使われたのである。これでは契約などおぼつかないと考えるが、実はその逆だったようだ。不思議なことに成績はうなぎ登りだったのである。オケラの人もいるなか、月に数百件を達成していたと聞けば、すごさが伝わらないだろうか。

「自分なりにいろいろ考えるうちに、ある事実に気がつきました。訪問先の人と会話をしているとき、『エッ?』と聞き返されることが一度もなかったのです。自衛隊基地の周辺を回ったときなど、『こんなに、飛行機の音でうるさいのに、むしろ、あなたの声は聞きやすいね』と言われたこともあるくらいです。その瞬間、こう思いました。」(島田さん)

「訪問先の人から『エッ?』と聞き返されたことが一度もない。騒音極まりない環境の中でも『あなたの声は聞き取りやすい』とも言われる。これは大学で声楽を専攻し、お腹から声を出す訓練をしていたからではないか。よくよく考えてみると、訪問先でお客様と会話をしているときは、いつも腹式呼吸を心がけていました。」(同)

――島田さんの、うなぎ登りは留まらなかった。受信料の新規開拓営業で次々と成果を上げていった。撃退されつづける他の営業とはなにが違っていたのだろうか。

「その後もとにかく、自分にとって一番好ましい声を『本番』で出すように努めました。その結果、全国トップ3にまでなりました。NHK新規受信料開拓営業のあと、私はプルデンシャル生命保険にヘッドハンティングされて転職をしました。営業マンとして、約10 年間の営業経験を生かして起業、現在にいたっています。」(島田さん)

自分にとって好ましい声とは

――あなたは商談やプレゼンに臨むとき、どんなことに注意しているだろうか。服装、髪型、お客様に見せる資料、プレゼンの要点、いろいろある。これは、人によって異なると思うが、島田さんは「声」の出し方に気をつかっているそうだ。

「声の出し方ひとつで、あなたの印象もガラリと変わります。商談やプレゼンや面接のその後の展開も大きく変わるでしょう。人は特定の人間の評価をするとき、第一印象が良いとその人に対するイメージは良い方向にふくらんでいきます。逆に、印象が悪いとその人に対するイメージは悪い方向にいきます。」(島田さん)

――20代の頃、プロジェクトの最終報告会で、緊張してあがってしまったことがある。かなりの早口で、うわずった声になっていたように思う。「失敗した」と思ったところ、反応はむしろ好意的だった。その時に、いかに要点を整理してわかりやすく伝えることが大切か実感したことがある。声がよければ申し分ないが、それは難しいと考えていた。

島田さんは、 100人いたら100通りの声があり出し方があると主張する。しかし、よほどの訓練をしない限り、元の声を修正することは難しい。さらに、人によって聞きやすい声があり、自分にとって好ましい声があるとする。そのことは知っていて損はない。

大きな変更をともなうものは面倒だし時間が掛かる。しかし、現状を踏まえた上での修正なら、できるかも知れない。自分にとって好ましい声を確認するだけでも、メリットがある。そんな気づきがほしい人におすすめの一冊である。

尾藤克之
コラムニスト