「比較優位性」を活用した働き方を考える

荘司 雅彦

ずいぶん前に読んだ本の中に、次のようなことが書かれていました。

とある経済学者が経済学の天才で大御所のポール・サミュエルソンに、「先生はどうして〇〇の分野の研究をしないのですか?」と訊ねたところ、「比較優位だよ」の一言が返ってきたとのこと。

「比較優位」はとても有名な経済学上の理論で、デービッド・リカードが提唱しました。以下のような例が有名です。

A国には10人の労働者がいて、年間100台の車と100トンの小麦を生産することができました。

B国にも同じように10人の労働者がいて、年間50台の車と50トンの小麦を生産することができました。

車1台の価格は小麦10トンの価格と同じとします。

B国は、車の生産でも小麦の生産でもA国より劣ります。

しかし、両国が自由貿易を行い、生産性の高いA国の労働者全員が車の生産に専念し、生産性に劣るB国の労働者全員が小麦の生産に従事すれば、両国合計で車が200台、小麦が200トンを生産することができます。

貿易前の両国の合計(150台と150トン)より多くの生産性を上げることができるのです。

1時間に100ドル稼ぐ弁護士の例も有名です。

弁護士はタイプの腕前も達者ですが、同じタイプをするのに自分より倍の時間がかかるタイピストを時給10ドルで雇います。

弁護士が1時間弁護士業務に専念して100ドル稼げば、タイピストが2時間かけてタイプをする時給20ドルを遥かに上回るからです。

この例で考えると、サミュエルソンにとって「〇〇の分野の研究」はタイプを打つようなものだったのかもしれませんね(笑)

企画のような内勤の仕事と営業のような外勤の仕事の双方で、とても高い結果をあげることのできるスーパービジネスパーソンがいたとしても、勤務時間には限りがあります。

内勤と外勤の双方で彼より劣る社員と役割分担をした方が、生産性ははるかに上がります。

仮に企画の方が生産性の高い仕事だとしたら、双方で劣る社員は営業で「比較優位性」を持っているのです。

よく若手社員が、「雑用ばかりやらされてつまらない」とボヤくことがあります。

しかし、生産性の高い仕事に熟練していない若手社員にとって、雑用は「比較優位性」のある仕事であり、きちんと組織に貢献しているのです。

組織やチームにおける比較優位性は、タスクやメンバーの面子によって異なってきます。

管理者としては、絶対エースを作ってしまうのではなく、仕事の都度メンバーの比較優位性を考えてチーム編成をするのが理想的です。

今の大企業や役所のように、がっちりと縦のラインができていると融通が効きません。

しょっちゅう人事異動をしたり上司と部下を取り替えたりすることは事実上不可能だからです。

近未来的な理想的な仕事の遂行方法は、次のようなものだと私は考えています。

核となる少数の経営陣がいて、新しい仕事をするたびにフリーエージェントたちの中から比較優位性に基づいた人選と雇用をしてチームを編成します。

前回トップだったAさんが、今回の仕事では裏方になることもあるでしょう。

とはいえ、固定的な関係ではないので、「今回はBさんのお手なみ拝見」ということでBさんの指示に従うでしょう。

どうしても嫌なら受けなければいいだけのことです。

もちろん、ルーティンワークのように日々の業務では、こういう形態は想像しにくいかもしれません。

しかし、ルーティンワークの最たるものであるオフィスの清掃も、新幹線の車内清掃のように絶対優位性を持つ人たちとそうでない人たちがいます。

アウトソーシングでうまく組み合わせればいいのではないでしょうか?

今日の固定的な縦組織を、その都度シャッフルするような柔軟な組織形態に変えることははたして可能なのでしょうか?

正直、私にもわかりません。既得権益を持った人たちからの猛反発も予想されます。

ただ一つだけ確かなことは、誰であっても「比較優位性」を持っているということです。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。