フローレンスの赤ちゃん縁組事業では、予期せぬ妊娠についての無料相談窓口(「にんしんホットライン」)を運営しています。
今回は、そのにんしん相談に寄せられた相談の件数やその内容、そして相談からどのように支援が進んでいくかについてご紹介します。
「誰にも相談できなかった。どうしたらいいかわからない」
2017年4月から11月までの相談は768件。
そのうち実際に相談対応ができた電話・メールでの相談が503件、それ以外の深夜などの着信電話が265件でした。
家族や周りの人にも相談できず、何とかにんしん相談の窓口に繋がった予期せぬ妊娠に悩む女性たち。
相談のほとんどは「どうしたらいいのかわからない」から始まります。
私たちは、まず相談者の気持ちに寄り添いながら話を聞くなかで、抱えている状況を整理できるように支援します。
その後、カウンセリングによって相談者の希望はどこにあるのかを確認しながら、行政・医療サービスなど社会資源についての情報も提供していきます。
女性は母体保護法により妊娠22週をすぎると中絶することができません。22週を過ぎて相談があった場合には、いずれにしても出産を迎えることになります。
私たちはカウンセリングと同時に母子手帳取得、保険証を持っていない場合はその取得、受診・・・と、必要な場合には役所や病院に出向く際にも同行支援を行い、女性が安全に出産できるよう支えていきます。
相談者の年齢層
10代から50代まで幅広い年代から相談が入ります。にんしん相談事業を開始した当初の予測に反し、学生と思われる21歳以下の相談者数は半数以下。半数以上は社会人と思われる年代からの相談となっています。
妊娠検査薬で陽性反応があった10代女性からの「親には言えない」という相談もたびたび入ります。
未婚の未成年者が妊娠した場合、保護者に打ち明けることができないと未受診のまま妊娠後期にいたったり、最悪の場合はそのまま一人で出産を迎えてしまうなど、母子の危険につながりかねません。
あるケースでは、メールや電話、LINE等でのやりとりを1日に複数回行い、数日間に渡って相談者の思いを受け止めながらカウンセリングを継続したことで、自分自身で親に打ち明けることができたケースもありました。
また若年の場合は特に、自分自身の体を守るために避妊が大切であることも一緒に伝えるようにしています。
どのような相談が多いの?
相談内容を把握できている503件のうち、半数近くは「妊娠が判明する前」の相談でした。妊娠中~子育て中の方からの相談では「妊娠初期」の相談が特に多い傾向にありました。
相談内容は以下の通りでした。
「育てられない」「養子縁組したい」
育てられない、養子縁組したいという相談は妊娠後期にはいることが多く、中には一度も受診しておらず、母体や胎児の状況が何もわからないまま産み月を迎えているといった危険な状況の相談もあります。
「予期しない妊娠」「若年の妊娠」「出産直前のパートナーとの離別」「レイプによる妊娠」など理由は本当にさまざまです。また複数の困難な事由が重なっていることも少なくありません。
「ひとり親で子育て中。妊娠したが2人目(3人目)は育てることが難しい」というシングルマザーからの相談や、結婚していたとしても「貧困のため3人目(4人目)を育てることが難しい」「夫が家計にお金を入れずこれ以上の子育てが考えられない」といった経済的な理由からの相談もあります。
また、「(妊娠中や出産後)子どもに障害が判明した。自分で育てて行くことは難しい」といった相談も少なくありません。
その背景には障害のある子どもを育てる上でのサポートや情報が少ない日本社会があると感じています。
障害の有無に関わらず親が安心して子育てできる社会インフラと、妊娠中から障害児のための療育や子育て支援について情報提供を受けたり相談できる場所があれば、障害のある子どもを育てることへの不安はもっと軽減されるのではないでしょうか。
フローレンスでは障害のある子どもたちのための保育事業(障害児保育園ヘレン、障害児訪問保育アニー)を行っていますが、障害児の子育てが家族だけに重くのし掛かる日本社会に一石を投じ、社会を変えていく一歩として、いま改めて役割の大きさを感じます。問題のつながりを感じずにはいられません。
「お金に関する相談」生活に困窮する相談者
直接的にお金の問題の相談は30件でしたが、これ以外にも相談される方の多くは何らかの経済的な問題を抱えています。
「転職したばかりで産育休の間の手当がもらえず子育てが不安」「非正規雇用でつわりが酷く仕事を休みがちのため収入がない」など、妊娠・出産に必要な準備が整っていないまま予期せずに妊娠したことに戸惑い、相談される方が多いです。
「中絶に関する相談」誰にも相談できずに
中絶する病院を紹介してほしい、中絶手術費用が準備できないと言った具体的なものもありますが、「中絶しようか悩んでいる」「手術を予定しているが、気持ちが追いつかない」「中絶手術を受けた彼女にどう声をかけたらいいのかわからない」といった相談も入ります。
妊娠・中絶に関して、身近な人には相談しづらい状況がうかがえます。
「妊娠したかどうか」-「妊娠の可能性はありますか?」
「妊娠の可能性はありますか?」これは、女性・男性いずれもとても多い相談です。その多くが「昨日(もしくは数日前に)、性交があった。妊娠したかもしれない。心配で仕方がない」という相談です。
このような相談は若い世代に限ったことではなく、30代、40代からもあります。「性行為と妊娠・避妊ついての正しい知識に乏しいため不安になる人がとても多い」という問題が顕著に読み取れます。
日本では年間19万件ほど人工中絶されているといわれますが、背景には圧倒的な性教育の不足があり、「こんなに簡単に妊娠するとは思わなかった」との声を多く聞きます。
最近では一部の医療関係者や有識者の提起により、若い世代に避妊や性教育について正しい知識を伝えていこうという取り組みも出てきていますが、学校などでの性教育の推進など、日本における性教育の拡充が急務だと現場からも感じています。
実際にあった相談事例
妊娠後期の女性から「同居のパートナーには結婚の意志がない。実家の家族にも妊娠したことを言えず相談できない。一人で子育てすることは考えられない。助けてください」という相談が入りました。
「養子縁組について詳しい話を聞きたい」との希望により、相談者の居住する地方まで出向き時間をかけて対面でカウンセリングをおこなっていくと、パートナーにも言えなかった「できることなら自分で育てたい」という自身の思いを表現できるようになりました。その後は、女性が自分で育ててゆくにはどのような道があるのかを一緒に考えていきました。
自分で育てるという道筋を見い出したこの女性は、実家の家族にも相談することができ、パートナーとも再度話し合い、最終的にはご自身の手で子どもを育てるに至りました。私たちは、相談活動の中で、相談者の方が自分の気持としっかり向き合い、結論を出すことができたら、それはどんな決断でも間違いではないと考えています。
私たちは特別養子縁組の支援を行っていますが、特別養子縁組がすべてのケースで最善ということではなく、子どもの福祉のための選択肢のひとつだと考えています。まずは、生みの親となる方(相談者)が子どもと自分自身にとって一番良い選択ができるよう考え抜くこと、それを支えるのが私たちの大きな仕事です。
もし特別養子縁組の道が選択された場合にも、そうして悩み抜いて出した決断は、きっと子ども・養親となる夫婦・生みの親自身 当事者みんなに幸せの一歩をもたらすはず。そう信じています。
フローレンスでは赤ちゃんの幸せを支えるためにも、まず予期せぬ妊娠に悩む女性が自分で決められるように丁寧に支える、そんな支援を行っていきたいと思っています。
にんしん相談が、助成や寄付を必要としている理由
にんしんホットラインの活動は、独立行政法人福祉医療機構より平成29年度 社会福祉振興助成(WAM助成)を受け、運営を支えていただいています。
フローレンスのにんしん相談は相談料無料です。相談者のなかには経済的に厳しい状況の方も多く、予期しない妊娠によって大きな不安を抱えてしまった時に誰もが安心して相談できる窓口が必要だと考えるためです。
養子縁組で委託することになった場合に限り、生みのお母さんへの支援にかかった費用を育ての親となる方に負担して頂いていますが、にんしん相談のうち、養子縁組委託に至る割合は1%以下です。
99%の相談は養子縁組には至りませんが、予期せぬ妊娠で悩んでいて答えを出せずにいる女性はたくさんいます。私たちはそのような相談にも向き合って、できるかぎり寄り添いながら対応しています。
無料でにんしん相談を運営するには相談員の人件費、事業所費用など運営費の調達は大きな課題となってきます。
相談は全国から入るため、対面でのカウンセリングや受診同行支援には、交通費などの費用もかかります。
手厚い支援を行うほど経費がかかることになり、厳しい経営状況に陥ってしまいます。そのため、多くの養子縁組あっせん団体が、なかなかそこまでできないのが実状かもしれません。
しかしフローレンスでは、妊娠・出産という人生の中の大きな決断に、相談者自身がしっかりと向き合って自己決定できるよう支援していきたいと考えています。
養子縁組ありきではない、予期せぬ妊娠に悩む女性に寄り添ったにんしん相談支援事業の運営は、助成やみなさんからの寄付によって支えられています。
これからも活動へのご理解、皆さんの応援どうぞ宜しくお願い致します。
赤ちゃん縁組事業への寄付はこちらから。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年1月17日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。