代理出産だと母子関係は認められない!?

荘司 雅彦

夫婦別姓を求める訴訟で、最高裁が「現在の制度は憲法違反ではなく、立法府に委ねられるべきもの」と説いたのは記憶に新しいことと思います。

選択的夫婦別姓を実施するためには戸籍法等の改正が必要になるので、最高裁としては立法府に委ねるしかなかったのでしょう。

違憲判決を出すと、国会を「唯一の立法機関」と規定した憲法41条に違反する恐れが大きいですから。同じように、代理出産についても「立法による速やかな対応が強く望まれる」と説いています(最高裁平成19.3.23)。

事案は、夫婦が米国ネバダ州在住の女性と代理出産契約を結び、人工授精させた受精卵をその女性の子宮に移植して出産した子供の出生届が受理されなかったというものです。

品川区が出生届を受理しなかった理由は、「妻による出産の事実は認められず、嫡出親子関係が認められない」というものでした。夫婦が著名人で代理出産することを事前に広めていたことから、代理出産は区役所にとっても公然の事実になっていました。

法廷闘争の結果、最高裁は以下のように判示しました。

実親子関係が公益および子の福祉に深くかかわるものであり、一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきであることにかんがみると、現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎、出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合であっても、母子関係の成立を認めることができない。

現在、日本国内では、(法的な規制はないものの)日本産婦人科学会が、子の引き渡し等のトラブル発生を避けることなどを理由として、代理出産を自主規制をしています。

通常、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子供は、嫡出子として出生届が受理されます。夫が真の父親でなくとも問題なく受理され、嫡出否認ができる期間を過ぎてしまうと父子関係は確定します。

ところが、本判決では、母子関係は「懐胎と出産」がなければ認められないと説いているのです。本件の夫婦は子供と特別養子縁組を結ぶことで解決を図りましたが、なんだか父親と母親との間に不公平感を感じるのは私だけでしょうか?

人工授精の際に、間違って他の女性の卵子が使われるリスクは男女とも同じです。

婚姻関係にあっても、他の男性の精子で懐妊することは現代では珍しくありません(約10%の男性が他の男性の子供を自分の子供だと思って育てているという研究結果もあるくらいです)。

せめて、母親に父親と同様「認知」を認めるべきではないでしょうか?

民法779条は「嫡出でない子は、その父または母がこれを認知できる」と書かれており、条文上「母」も含まれています。

ところが、今日では母による認知は認められておらず、出産したという事実のみによって当然に母になると理解されているのです。仮に、出産していない子は嫡出子として出生届を受理できないとしても、母親の「認知」をによって母子関係を形成してもいいのではないでしょうか?

「認知だけだと非嫡出子になってしまう」という反論もあろうかと思います。

しかし、そもそも非嫡出子と嫡出子を差別すること自体が不当なのです。不公平な制度を徹底的に是正すると同時に、代理出産に関する法的整備をすすめるのが正論でしょう。

法整備ができるまでの間は、母による「認知」を認めて当事者の便宜を計るのが妥当と考えます。

荘司 雅彦
講談社
2006-08-08

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。