中東和平提案?
昨年12月、米国トランプ大統領は突如として、予てからパレスチナ自治政府との間で係争地となっているエルサレムをイスラエルの首都と認め米大使館の移設を図って行く事を表明した。
その動機は、今年の中間選挙へ向け共和党支持層の中で有力なキリスト教福音派の支持を得るため、或いは経済・マスコミ等を牛耳るユダヤ人の支持を得てロシアゲート等の政権攻撃を回避するためとも言われている。
断片的に報じ始められているところでは、トランプ大統領が今年前半にも中東和平提案を打ち出すという。愛娘イヴァンカの夫でユダヤ教徒のクシュナー大統領上級顧問に和平案について働き掛けを受けたサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、アッバス自治政府議長をサウジに招いて、米国の和平案を受け入れるよう求めたともいわれる。その和平案については、入植地の解体はなく、ヨルダン川西岸の大部分がイスラエル側に編入されるという内容で、さらに難民の帰還もないという。
難民の問題では、レバノンにいるパレスチナ難民にレバノンの市民権(ヨルダンの市民権という説もある)を与える代わりにイスラエルへの帰還を放棄するというもののようだ。
以上、真偽のほどは分からないが、筆者はこれらについてスケールは全く違うもののトランプの不動産王時代の取引スキームに似ているという印象を持った。その著書「The Art of the Deal」によると、市や州当局や第三者も巻き込み、マスコミに向け大きなラッパを吹いたり噂を流したり、相手を脅したりすかしたりしながら、複雑に絡み合った権利を解きほぐし、ディールするエピソードがこれでもかというばかりに出て来る。
世界秩序の中で
トランプの今回のエルサレム首都宣言は、抗議デモで死傷者が出たものの、今のところ中東に燃え広がるような混乱まではもたらしてはいない。しかし、今後ボディーブローのようにイスラム過激派を活発化させ中東と世界を混沌へと導いて行くことも十分考えられる。一方、自身の不動産王時代のスキームのようにパレスチナ問題に一定の決着を与える可能性はある。これらは、現時点で予想することは困難だ。
更には、イランでは大規模な反政府デモが起き、予てからイランを敵対視していたトランプはこれにエールを送っている。
視点を変えて、これらをより巨視的に俯瞰し今後の在るべき世界秩序、即ち作られるべき世界史の中に位置付ければどうなるか。
イスラム世界は宗教改革を経て世俗化穏健化し、過激派を駆逐しスンニー派とシーア派が和解する。
次いでキリスト教世界はある時点で過去の植民地支配等を謝罪し、イスラム世界と和解する。
そして、日米露印欧にイスラム世界を加えて中国包囲網を完成させ、戦わずしてその牙を抜く。
筆者は、これらが概ね今後のあるべきトータルな世界秩序であり、それ以外では恐らく世界は安定しないだろうと考える(さもなくば、混沌もしくは新たな華夷秩序の出現となろう)。
トランプの起こした中東の波紋は、果たしてその一部としてこのような世界秩序に収斂して行くものになるのか。
日本を含む国際社会は、トランプの中東政策と結果を虚心坦懐に注視して行くと共に、そこに誘導して行く必要があるだろう。
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佐藤鴻全 政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
HP:佐藤総研