韓国では、昨年7月に最低賃金を16.4%引き上げることが可決されました。
施行が今年からと発表されると、雇用主から猛反発が上がったとのことです。すでにアルバイトが解雇されたり、営業時間を短縮している業者もいるようです。
最低賃金制度が、市場原理である「需要曲線と供給曲線の一致点」よりもも上がってしまうと、労働需要が減って供給過剰になります。
労働需要が減少すれば、アルバイト学生などが真っ先に解雇されてしまいます。高い賃金では利益が出ないので、アルバイトを雇わずに済ませたり時短で凌ごうとするからです。
借家人保護のために行う家賃統制は、これと逆です。
無理やり「需要曲線と供給曲線の一致点」よりも価格を下げてしまうので、需要超過、供給過少となってしまいます。こんな安値で貸したのでは儲からないと考える所有者が急増し、借家の供給が極端に減少します。
結果として、住処を探すことが極めて困難になってしまうのです。
経済学的では、最低賃金が必要とされるのは、地域柄働く場所が一つしかない場合と、他の働き口があっても転職が極めて困難な状況下だけだと言われています。
他の働き口を容易に得ることができれば、低賃金の職場から高い賃金の職場に転職する人が増えるので、需要曲線と供給曲線が一致する点まで賃金は上がっていきます。
低賃金を維持しようとすれば人材はどんどん他に流出するので、人材流出を阻止するには適正な賃金にするしかないのです。
韓国では従来から終身雇用制度が採用されています。2015年の12月には、終身雇用保障を緩和するために進められている労働法改革に反対して、抗議デモが予想されると報じられました(実際に行われたかどうかまでは調べていません)。
韓国の労働者は、安定した身分を保障された正社員と不安定な非正規社員に分けられ、民間企業の40%前後が派遣や外部委託です(2015年時点)。
とりわけ、若年世代(15歳から29歳)の失業率は10%を超えています。
経済全体が低迷しており、ただでさえ労働需要が少ない時に最低賃金を無理やり上げれば、解雇される非正規社員が増えることは当然予想されたはずです。労働者の中の特権階級である正社員の解雇規制を緩和しない限り、この不公平感は払拭されないでしょう。
日本も同じような状況になりつつあります。幸いにして企業業績が良好で労働需要が高止まりしています。
しかし、待遇面では、終身雇用と年功賃金の恩恵を受けた特権的正社員と賃金の安い非正規社員の溝は日々深まりつつあります。韓国のように進退両難の状況に陥る前に、解雇規制の緩和を断行すべきです。
旺盛な労働需要が受け皿として機能しているうちに。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。