飲食業界の正社員の半数近くが3年以内で辞めていくといわれるなか、新入社員の2年以内の離職率ゼロという驚異的数字(2015年度)を出している会社がある。その会社は、KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)。これまで、多くのマネジメント系や仕事術の本を手にしてきたが、KFCの書籍は初めてではないかと思う。
書籍名は、『ケンタッキー流部下の動かし方』(あさ出版)。著者は、元同社トレーニングコーチの森泰造さん。日常の部下との接し方や、チーム力をアップさせる「部下のまとめ方」など、実際の現場で起こった事例を基に紹介している。
クリスマスにチキンを食べる理由
クリスマスにチキンを食べる習慣はいつ頃からだろうか。クリスマスといえばケンタッキーという人も少なくないだろう。クリスマス期間中、ケンタッキーは1年でもっとも賑わう時期を迎える。奥の厨房ではスタッフがてんやわんやになる。ところが、クリスマスにチキンを食べるのは日本だけというのはあまり知られていない。
アメリカでは七面鳥をローストターキーに調理することが多い。味は淡白であっさり。アメリカでは七面鳥は縁起物として位置づけられている。建国の頃から七面鳥は貴重な食料だったのである。そのため、祝いの席(感謝祭、結婚式、クリスマスなど)で七面鳥は欠かせない。むしろ日本では入手のし易さからチキンが普及した。
ではなぜ、日本ではチキンがクリスマスの定番となっているのか。なにか日本ならではのエピソードがあるに違いない。森さんによれば、仕掛け人は、当時のKFCの代表取締役社長、大河原毅さん。KFCの店舗がまだ日本に100店前後しかない1073年12月に、青山の店舗に近い、ミッション系幼稚園からあるオーダーがある。
それは、『クリスマス会のサンタクロース役がいません。フライドチキンを買うのでサンタに扮装してくれませんか』というものだった。それを聞いた大河原さんは快く引き受け、サンタの扮装で子どもたちにフライドチキンを振舞った。これは大きな反響となり、口コミで広がり、いろいろな学校から注文が入ってくるようになった。
「大河原さんは『ケンタッキーでクリスマス』を根づかせるためのキャンペーンを展開することを思いついたのです。これがきっかけでケンタッキーのフライドチキンは爆発的なブームとなリ、日本では『クリスマスにはケンタッキー』『クリスマスにはチキン』が定着したのです。さらに、様々な効果も見られました。」(森さん)
「お客様がケンタッキーを通して、笑顔あふれる時間を過ごしてくださるクリスマスは、店長や従業員にとっても、自分たちの可能性にチャレンジできる神聖な期間。店舗では暑い夏の時期から綿密な計画を立てて、クリスマスに臨んでいます。クリスマスを経験すると、皆ひとまわり頼もしくなります。」(同)
人材育成のポイントはほめること
昨今、「ほめる」がブームになっているが、ケンタッキーの「ほめる」は少々異なる。まず、「ほめる」目的が明確でなければいけない。その目的は3つに分類される。
(1)ほめる」のは組織に成果をもたらすためだと心得る
(2)ほめることで部下の生産性は向上する
(3)部下の生産性が向上すれば組織の成果につながる
この3つに該当しない限り、「ほめる」ことは厳禁なのである。「リーダーの役割は、組織をまとめ上げ、成果にまい進することです。最終的な目標・成果を意識して何に価値を置いてほめるのを明らかにしたほうがいいでしょう。成果を積み重ねることで部下が成長し、部下が成長することで組織も成長します。」(森さん)
「目的をはっきりと自覚したら、臆することなく堂々と部下をほめましょう。そうすれば部下のやる気を引き出せるだけでなく、行動も変わることでしょう。」(同)
KFCは新入社員の2年以内の離職率ゼロ。つまり定着率が“上がっている”ことになる。チキンを「揚げている」だけではなく、社員のモチベーションも「上げている」。さて、筆者も1月に新しい本を上梓した。ご関心のある方は、チキンでも食べながらリラックスしてご一読いただきたい。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)。
尾藤克之
コラムニスト