【映画評】羊の木

渡 まち子

さびれた港町・魚深市。市役所職員の月末一(つきすえ はじめ)は、移住してきた6名の男女を受け入れるよう上司から命じられる。この6人は実は全員が元殺人犯で、移住は、受刑者を仮出所させ、過疎化が進む自治体で受け入れる国家の極秘プロジェクトだった。6人は、互いに接触しない、住民には素性は知られないようにする、最低10年は居住するなど、いくつかのルールの中で、町に馴染もうと努力していた。そんなある日、港で身元不明の死体が発見される。月末は不安にかられ、町と住民の日常が少しずつ狂い始める中、魚深市の奇祭“のろろ祭”の日が近づいていた…。

元殺人犯を受け入れた町を舞台に、異物が入り込んできたことで日常が歪んでいく様を描くヒューマン・サスペンス「羊の木」。原作は、山上たつひこといがらしみきおによる同名漫画だ。実写映画化された本作は、映画オリジナルの結末も含めて、原作からかなり離れているが、上手くまとまっている。元殺人犯の受刑者は、皆、挙動不審で、いつ爆発してもおかしくない人々ばかり。そんな緊張感の中心にいるのが、善良で凡庸な“普通の青年”月末というところが面白い。中心に平和を、周囲に波風を据える構図は、吉田大八監督の代表作の一つ「桐島、部活やめるってよ」にも通じる奇妙なテイストを感じさせる演出だ。

極端に臆病だったり、几帳面だったり、はたまた傲慢、迫力、過剰な色気、天真爛漫と、6人それぞれの個性はやがて衝突し連鎖していく。異物を排除する不寛容と、異質なものとの共生という寛容。その接点でせめぎあうこの物語には、奇祭の神・のろろが導く、思いがけない結末が待っている。それにしても、受刑者を受け入れることで刑務所の経費(税金)を削減しながら、同時に過疎化問題も解決してしまおうという突飛なアイデアは、架空なのに妙にリアルで生々しい。ユーモラスかつスリリングな演出、俳優たちの妙演のアンサンブル、そこに浮かび上がる人間の本性。なかなか奥深い群像劇だ。主人公・月末はいわば狂言回しなのだが、普通の青年役なのに群像劇に埋もれない錦戸亮の存在感が光っていた。
【70点】
(原題「羊の木」)
(日本/吉田大八監督/錦戸亮、木村文乃、松田龍平、他)
(オリジナリティー度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。