森友問題の佐川長官は自主退職するのがいい

中村 仁

衆議院インターネット中継より:編集部

予算委は本来の予算審議に戻れ

森友学園への不透明な国有地払い下げ問題で、官側の責任者であった佐川国税庁長官(当時、財務省理財局長)の辞任が不可避になってきたと思います。麻生財務相が「適材適所の人事」だったと弁明してきたため、更迭は避け、国会審議や税務行政の停滞の責任をとる形で、自主的に辞職を申し出ると、予想します。

長官を追い詰め、辞職させれば、野党は点数を稼いだと考えるでしょう。それで終わりではありません。真相究明は必要ですから別の場で続け、国会の予算委員会はデフレ対策、財政再建、成長戦略などを中心にすべきです。高官の首よりも、こちらが重要です。

誤解のないように申しておきます。森友学園問題は、国政全体からみると、愛国主義教育をする小学校の新設をめぐる小さな事件です。小さくても、政治家や官僚が背後でどう関与したのか、政治問題に発展した場合、どのように彼らは処理をするのかを知る滅多にない機会です。最後まで真相を解明してほしいですね。

民間企業に比べ官に甘い

民間企業で、例えば、社有資産の売却をめぐり説明できかねる問題が起きると、監査法人が調査し、不正があれば検察が調査に乗りだします。悪質ならば、社長も退任という事例が多数あります。民間企業には厳しく、官には甘いを許してはいけません。

佐川長官が辞職するのがよいと考えるのは、官僚のトップとして、姑息な行動が目にあまるからです。国税庁長官に就任(昨年7月)した際、森友問題に質問が集中するのを恐れ、記者会見を拒否しました。問題の本筋と関係ないとしても、重大な責任放棄です。

財務省、財務局が払い下げで不透明なことをしていないなら、丁寧にそう説明すべきでした。それを回避したことは、官として致命傷です。説明できないのなら、「今、調査中で、結果がでたら公表する」とでもいって、かわす細工くらいすべきでした。

「交渉記録を廃棄した」といっていた関連文書が20件、300㌻も最近になって、公表したことは政府不信を高めました。森友問題が明るみになったのは一年前です。会計検査院の調査の際にも、提出しなかった文書を最近になって出してきたのは、隠蔽に当たります。「交渉記録とは異なる文書」という財務省の説明も苦しまぎれです。

確定申告が始まった際(2月15日)は、「財政危機が深刻化しており、国民に公正な納税をお願いする」と訴える立場なのに、その記者会見も開いていません。国有地払い下げに伴う不透明な取引の真相解明と別に、逃げ回るだけの国税のトップは、失格です。

麻生財務相が「適材適所の人事」と断言した手前、佐川氏を更迭する形はとれない。佐川氏が「税務行政の混乱を招いた責任をとる」といって辞任するのがいい。国会の参考人招致などに応じたら、辻褄の合わない説明がぼろぼろ出てくる。そこで自主的に辞任を申し出てもらい、幕引きするという算段ですか。

佐川氏1人の責任ではない

私は佐川氏一人に全責任あるとは、思いません。政権の意図が働いており、それを疑われないように、筋の通らない説明、文書の破棄に財務省が追い込まれていったと推測するのが自然です。そうした意図がないなら、資料を出して合理的な理由を説明すべきです。

財務省の有力OBが現役のトップクラスに「実のところ、どうなっているのか」と、聞いたことがあるそうです。「その件だけは説明を勘弁してほしい」との返答でした。また、「政権中枢の意図を忖度した結果だ」との説明なされてきました。財務省周辺では「通常の忖度ならそこまではしない。強い意思が働いた」が常識だそうです。

学園の籠池・元理事長は手八丁口八丁のやり手で、安倍首相周辺も口車に乗せられ、財務省、財務局、国交省などが国有地の売却で無理に無理を重ねたのでしょう。口車に乗せた側、載せられた側がともに責任を負うべき問題です。

それにしても、佐川氏含め、官僚組織の担当者は、ミスのうえにミスを重ねました。始めのウソが次のウソを生み、とうとう「破棄したはずの関連文書が出てきた」、「国有地売却に至る過程も合理的に説明できない。だから沈黙する」では、もう限界です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年2月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。