ハンガリーで4月8日、国民議会選挙が実施される。複数の同国世論調査によると、オルバン首相が率いる中道右派政党「フィデス」が約50%の支持を獲得して断トツで、それを追って極右政党「ヨッビク」が約20%で続いている。第3次オルバン政権の発足は現時点ではほぼ確実だ。選挙戦ではオルバン首相は“ハンガリー・ファースト”政策を強調している。
オルバン首相は18日、国民向けの演説で「西欧社会は堕落した」と強調し、「難民・移民の殺到で欧州の伝統的なキリスト教社会に暗雲が漂い、危機に瀕しているが、欧州社会はそれに気が付いていない。欧州の都市では近い将来イスラム系住民が半数を占めていくだろう」と警告を発した。
国内の野党に対しては、「彼らは国境線で鉄条網を設置することを拒否し、欧州連合(EU)が強要する難民受け入れ政策を支持してきた。わが党はハンガリー社会へのイスラム系難民・移民の殺到を阻止するために鉄条網を設置し、イスラムの北上を止めてきた」と、過去の難民政策の実績を鼓舞する。オルバン首相は議会の3分の2の議席を堅持するために難民問題を駆使し、選挙戦を有利に展開させているわけだ。
欧州で2015年アラブ・中東諸国から100万人を超える難民が殺到した時、オルバン首相は一早く国境線の監視を強化し、鉄条網を設置。ハンガリーの国境警備隊が放水で難民を追っ払っている写真が世界に流れると、欧州各地からハンガリーの難民政策を批判する声が挙がった。
しかし、ハンガリーの難民政策は大量の難民殺到で苦しむ独南部バイエルン州で歓迎され、隣国オーストリアでは当時外相だったクルツ首相が受け入れ、対バルカン国境線を閉鎖するなど強硬政策を実施して、成果を上げていった。
難民歓迎政策を主張してきたドイツのメルケル首相ですら、難民受け入れ最上限設置こそ拒否しているが、国境管理の強化に乗り出している。難民政策では、欧州は程度の差こそあれ“オルバン化”してきたといわれるほどだ。
その一方、ハンガリーを見る目は決して好意的ではない。EUの難民受け入れ分担枠を拒否し続けるからだけではない。オルバン政権が「言論の自由」や「司法の独立性」を無視する改革案を実施し、ここにきて非政府機関(NGO)の監視強化を目指す改正法を議会に提出するなど強権的な統治スタイルに対し、EUは大きな懸念を有しているからだ。外交政策では、オルバン政権はEUから距離を置く一方、ウクライナのクリミア半島の併合で欧州の制裁下にあるロシアに歩み寄りを示してきている。EUのブリュッセルからハンガリーは異端児扱いを受けていることは事実だ。
最近では、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)について、オルバン政権は厳しく対応し、閉鎖を要求している。国民議会で昨年4月採決された改正案によれば、外国人が開校した学校はハンガリー国内の学校と共に自身の居住国にも同様の学校を開校していなければならないからだ。
オルバン首相は欧州に殺到する難民・移民の背後にそれを支援するソロス氏の関与があると指摘し、全土に反ソロス・キャンペーンを展開している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。