【映画評】空海 KU-KAI 美しき王妃の謎

渡 まち子

7世紀、唐の時代の中国。若き日の空海は、密教のすべてを会得しようと日本から中国に遣唐使として渡ってきた。ひょんなことから詩人の白楽天と知り合った空海は、彼と交流を深めていく。その頃、権力者が連続して命を落とす不可解な事件が唐の都で起きていた。怪事件の真相に迫ろうとする空海と白楽天は、やがて50年前に同じく唐に渡った日本人、阿倍仲麻呂の存在を知る。仲麻呂が使えた玄宗皇帝の時代、そこには国中を狂わせた絶世の美女・楊貴妃の存在があった。やがて空海と白楽天は、歴史の闇の葬られた哀しい真実へとたどり着く…。

若き日の空海が唐の都で起こった怪事件の謎を追う歴史スペクタクル「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」。原作は夢枕獏の小説「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」だ。日中合作のこの超大作でメガホンを取るのは中国の巨匠チェン・カイコ―。遣唐船を原寸大で再現し、6年の歳月をかけて唐の長安をまるごと作り上げるなど、こだわりの映像が満載である。総製作費150億円というからトンデモないスケールの“アジア映画”作品で、シルクド・ソレイユにも似た極楽の宴の絢爛豪華なビジュアルは、思わず息をのむ美しさだ。

物語は史実とフィクションを巧みに組み合わせた内容でワクワクする。妖猫の呪いには、絶世の美女・楊貴妃の闇に埋もれた悲劇があるというのも、悲しいロマンがある。もっともスペクタクルで壮麗な映像に凝りすぎて、映画そのものは大味で中途半端になってしまった。中国版「陰陽師」と呼ぶには妖(あやかし)が足りず。中国版「シャーロック」と言うにはアクションが足りない。ただ空海を演じる染谷将太が意外なほど好演で、天才肌の僧侶であると同時に、ちょっとお茶目な若者でもある空海を演じて存在感を示していた。大詩人・李白を超えようとする白楽天もまた夢を追う青年。このファンタジー大作は、若者の成長物語でもあるのだ。
【65点】
(原題「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」)
(日本・中国/チェン・カイコー監督/染谷将太、ホアン・シュアン、阿部寛、他)
(スケール度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年2月25日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。