ブラジルのルラ元大統領が賄賂で稼いだ金額

大統領時代の2008年洞爺湖サミットで来日したルラ氏(Wikipedia:編集部)

2003年から2011年まで二期8年、大統領を務めたルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ(通称:ルラ)元大統領にポルト・アレグレ連邦地方裁は二審で懲役12年の刑を言い渡した。一審でも9年の刑が判決されていた。

有罪判決の理由を簡潔に言えば、彼は多額の賄賂を受け取っていたということなのである。その証拠も充分に挙がっている。大統領に就任してから任期満了になるまでに彼の資産は27倍に膨らんだと言われている。そして彼の家族も金銭的な恩恵を受けていた。

この有罪判決によって、今年10月に予定されている大統領選挙への立候補はほぼ不可能になっている。あとは最高裁で判決が覆えされない限り、ルラ元大統領の選挙戦への参加は出来なくなっている。

次期大統領候補として、ルラは現在まで支持率ではトップを走っている。大統領になれば、不逮捕特権を利用して有罪判決から逃れることが出来る。そう考えているというのは、昨年3月にルセフ前大統領との電話会談が盗聴されて、それが明かになっている。ルラが国民から高い支持を受けている理由は、凡そ3000万人の貧困に喘いでいた市民の生活レベルを向上させ、しかも彼の政権下で経済は安定成長を維持したからであった。

ルラが任期を終える時点で、支持率は80%であったということから彼を支持する市民が今も多くいるということなのである。

彼の退任後、ブラジルの経済は世界レベルでの不況の影響を受けて景気は後退し、歳出へのコントロールが不十分であったことから財政赤字が問題視されるようになっていた。それがルセフ前大統領の政権時に表面化して、ブラジル経済は急速に低迷したのである。

しかし、ブラジルの経済が成長していたルラ政権時には、石油公社ペトロブラスと同社のプロジェクトに密着して工事などを請け負っていたゼネコンの最大大手オデブレヒト社からルラや彼が率いていた労働者党は多額の賄賂を受け取っていたということなのである。ルラは外国ではこの2社のプロモーターのような役目を果たしていた。

オデブレヒト社の社長だったマルセロ・オデブレヒトはブラジルを始め、南米の大半の国の政治家に賄賂をばら撒いて見返りに工事の受注を受けていたことが判明して19年の実刑を受けて収監されていた。が、刑務所での生活に耐えられなくなり、10年の減刑を交換条件にして、彼の会社がばら撒いた賄賂の全貌を明らかにするということをセルジオ・モロ判事と合意したのである。

これが起因となって、ルラや当時の政府閣僚や重鎮議員らに贈与した資金が解明されたのである。現在までルラ、ルセフそしてテメル大統領らを残して賄賂を受けていた閣僚や議員らは全員逮捕されている。

ブラジル経済は低迷し、貧困から抜け出た市民の中にはまた貧困生活に戻らねばならなくなった者もいるという。そして、毎日のように賄賂に絡んだ報道が市民の前に明らかにされるに及んで、市民の間ではクリーンな政治に戻る必要があるとして軍部によるクーデターを望んでいる声も聞かれるようになっているのである。しかも、軍の内部でも、ルラが大統領に返り咲くのであればそれは容認できないと考えている軍人もいるという。実際にそれを明白にしている将軍もいるという。

だから、実際にはルラが大統領に復職するのを多くの市民が望んでいるのではないのである。それを裏付けるように、ルラの後に支持率で少し離されてはいるが2位につけているのは、前職が警官で極右派のジャイル・ボルソナロ議員である。彼は政権に就けば閣僚の半分は軍人から任命すると発言している。彼のお手本になっているのはトランプ大統領だという。2014年の総選挙で、最大の都市リオデジャネイロで最も高い得票数を得たのがボルソナロ議員だったということは、多くの市民がルラそしてルセフと続いた労働者党政権に多くの不満を抱えているということなのである。

では今回のポルト・アレグレ連邦地方裁で3人の判事が揃ってルラ元大統領に判決を下すのに懲役期間を引き延ばしたことに全員一致で同意したという。それだけルラが有罪であるということの十分な証拠があるということなのである。

ところで、ルラが自らの懐を豊かにしたその金額がどれだけの額なのか電子紙『infobae』(1月26日付)がかなり詳しく伝えている。それによると、彼が申告した資産は1170万レアル(4億360万円)。連邦警察は彼の実際の資産はそれを遥かに凌ぐものであるという証拠は見つけているという。グアルジャの3階建ての豪華マンションの所有者であるというのは否定しているが、彼の所有であるという証拠は充分に挙がっている。それ以外に警察が見つけた彼が所有者だと判断できるものに土地、マンション、不動産や講演で得た外国での収入などがある。

更に上述紙の中で、ブラジルの情報誌『Veja』がオデブレヒト社から3380万レアル(11億6600万円)、同じくゼネコンOASから780万レアル(2億7000万円)、複数の他社から1590万レアル(5億4900万円)がそれぞれルラに贈られていることも報じた。

また、労働者党にも3億7000万レアル(130億円)が贈られているが、これもルラの口座に入金されることなっていた。更に、ルラの息子の一人ファビオ・ルイスは1億500万レアル(36億2000万円)、もうひとりの息子ルイス・クラウディオには420万レアル(1億4500万円)。そして甥のタイグアラ・ロドリゲスには2000万レアル(6億9000万円)が享受されていることも明らかとなっている。

これら以外に、マルセロ・オデブレヒトがモロ判事に供述で明らかにしたことがある。ルラの老後資金として4000万レアル(13億8000万円)を用意したそうだ。ルラは政治家として現役を去ってはいるが、まだ政治的影響力をもっているとしてこの額をオデブレヒトは決めたそうだ。

また、ブラジルが2013年に戦闘機の購入の際にも彼に賄賂が渡されているはず。当時、大方の予想は米国ボーイング社のF/A18を購入すると見られていた。しかし、スウェーデンのサーブ社のGripen-NGの36機購入となった。理由は購入費用が米国のそれに比べ安価であるということと、技術給与をするということで決めたとされた。しかし、その少し前に米国NSAがルセフ大統領の電話を盗聴していたということが判明し、それに憤慨してブラジル政府は米国からの戦闘機購入を辞退したとも言われていた。

しかし、あの時に明白にされなかったことに当時ルラがルセフ大統領をGripenを購入するように説得したことが要因としてあったという。何しろ、ルセフはルラの師匠であり、彼のお陰でルセフは大統領に成れたのである。後者の前者の説得は容易であった。

よって、ルラはサーブ社から多額の手数料を貰っているはずである。検察はこの調査も進めているという。

貧困層出身のルラは労働組合で頭角を現し、大統領選挙に3度挑戦して3度目にそのポストを射止めた人物だった。しかし、汚職で懐に容易にお金が入るようになると、それから離れられなくなったようだ。