財務省に説明責任はあるが、朝日新聞も挙証責任がある

新田 哲史

森友学園への国有地売却を巡り、財務省の決裁文書を書き換えた疑惑があると朝日新聞が報じた問題は、予算委が開かれなくなるなど、国会が空転した末に、8日朝、財務省から当該文書のコピーを国会に提出することになった。

永田町ではいま「朝日新聞が第2弾、第3弾のネタも用意しているのではないか」(自民党国会議員)と疑心暗鬼になる見方もあり、筆者も、ひょっとしたら安倍政権に追い討ちをかけるために、新たなネタをこの日にぶつけてくるのではないかと思ったが、ネタ切れなのか、出し惜しみしながらの様子見なのか、けさの朝刊では新しい話は出てこなかったようだ。

未明に電子版でアップした「森友問題、決裁文書のコピー提示へ」の記事では、国会に文書が提出される動きを伝えるストレートニュースの後に次のような記者の見立てを追記している。

提出する文書、「変更後」の可能性
朝日新聞は、国有地取引に関する森友学園との契約当時に作られた決裁文書と、過去に国会議員に開示された文書を確認した。契約当時の文書の中には「特例的な内容となる」「本件の特殊性」などの文言があったが、議員らに開示した文書ではなくなっていた。

複数の関係者によると、昨年2月に土地取引をめぐる問題が発覚した後に書き換えられた疑いがあるという。

財務省が8日の参院予算委員会理事会に提出する文書は、契約当時の文書から内容が変わった文書の可能性もある。

新聞記者の常識にそぐわない奇異な報じ方

かいつまんでいうと、朝日は、あくまで自らの報じた文書の「正当性」をあらためて主張している。しかし、この問題は、当初から田中秀臣氏らが指摘しているように、①記事が「文書を入手した」という表現ではなく、「確認した」という記述になっていること、②「確認した」とする書き換え文書の写真が掲載されていないこと(紙面掲載の写真は国会議員に開示された以前の文書)—の2点は、奇異な印象が拭えない。

これは私が朝日新聞嫌いだから言うのではない。日本新聞協会に加盟するような新聞社で数年でも記者として仕事をした人間であれば、文書を入手した場合の特ダネとして異例であることは常識的に感じることだ。

②の写真なしの問題については、昨年5月に加計学園の「総理のご意向」文書を報じたときの写真掲載が「恣意的だ」と批判されたことへの「反省」から、予防策を張り巡らせてきたのではないかとも思ったが、情報源が特定される可能性を警戒しての措置とみるのが順当だろう。

その情報源については、検察関係者や財務省関係者、はては安倍首相や麻生財務相に政治的打撃を与えようとする自民党内部の裏切りまで取りざたされているが、朝日も秘匿するだろうし、真相解明は容易ではないから詮索しても生産的ではない。ただし、朝日が文書自体は入手していないために、「確認した、との記述にとどめ、写真も提示していないのではないか」という見方もでている。

文書を入手せずとも、新聞記者が取材先で文書をカメラ撮影して現物代わりの根拠とすることは昔からある。いまならスマホで高画質で証拠は抑えられるわけだが、新聞記事は所詮文書の中身の概要を伝えるに過ぎないわけだから、写真という物的証拠なしに「入手した(本記事では「確認した」)」記事だけを提示されただけでは、証拠力が弱い。もしかしたらスマホ画像では格好が悪いということかもしれないが、いずれにせよ、ここまで掲載されたレベルでは、アンチ朝日の人には「怪文書未満」のレベルでしか思われないだろう。

「怪文書未満」の記事で首相のクビをとっていいのか

もちろん、財務省内の書き換えが仮に行われていたとすれば、民主主義社会の根幹を揺るがす不祥事だ。あらためてこの国の行政文書管理のずさんさの後進ぶりを示すことになり、刑事罰を含めて徹底した真相究明、財務省の説明責任はなされなければならない。

しかし、朝日新聞にも相応に挙証責任はある。すでに国会を空転させるほどの重大事になっている。「安倍政権憎し」で一生懸命になるのは勝手だし、情報源秘匿等の事情はあるにしても、当該情報の出し惜しみをするあまり、日本を代表する報道機関としての社会的責任を軽視してよいのか。

もし、朝日がこのレベルでの情報開示のまま、事態が大きくなって、麻生財務相、あるいは安倍首相が辞任することになったとしよう。そうなると、「怪文書未満」の報道で一国を左右させることもできる悪しき前例となる。仮に左派政権が誕生した時に、産経新聞が同じような報道をやったとしても許されていいのか。

さすがに読売や産経、いや毎日や東京もそんな邪道な報じ方はしないと思うが、「安倍憎し」の感情のあまり、盲目的になって基礎をおろそかにされては困る。民主主義社会を揺るがすブラックボックスは、政治・行政だけでなく、報道機関にもあるのだ。

新田 哲史:宇佐美 典也
ワニブックス
2017-08-28