横須賀から、親戚が住む長崎県佐世保市の高校に転校してきた薫は、真面目な秀才だが、学校でも家庭でも居場所を見つけられずにいた。だがひょんなことから不良生徒の千太郎、千太郎の幼なじみで町のレコード屋の娘・律子と親しくなる。千太郎とは友情を育み、律子に淡い恋心を抱いた薫は、二人を通じてジャズと出会い、その魅力に取りつかれる。しかしそんな幸せな日々は、ある事件をきっかけに変わってしまう…。
高校生たちの友情と恋、ジャズとの出会いを描く青春ラブストーリー「坂道のアポロン」。原作は小玉ユキの名作コミックで過去にアニメ化もされている。本作全体を覆うノスタルジックな空気は、成長して医者になった薫の回想形式の語り口、昭和40年代という時代背景、異国情緒あふれる長崎・佐世保の風情などが要因だ。長い原作ものの実写映画化の常で、有名なエピソードをつなぎあわせ、駆け足で進む感じは否めないが、少なくとも、高校時代の薫、千太郎、律子の3人のキャラクターは丁寧に描かれている。
居場所がない薫や、複雑な出自を秘めた千太郎の抱える孤独を癒すのが、律子の明るさとジャズだ。青春映画と音楽の組み合わせは数多いが、ジャズという難しいジャンルに果敢に挑んだ、出演者たちに拍手を送りたい。吹替えなしで挑んだというセッションシーンは迫力たっぷりで、印象的に使われる名曲“モーニン”、“マイ・フェイバリット・シングス”などの曲のチョイスもいい。少女マンガにしてはあっさりとした絵柄の原作マンガのイメージを壊すことなく、青春のキラキラ感は残しながら、さわやかに仕上げた三木孝浩監督の手腕を評価したい。友情と恋がほぼ同じ重さで存在できた“あの頃”の輝きがまぶしい青春映画だ。
【65点】
(原題「坂道のアポロン」)
(日本/三木孝浩監督/知念侑李、中川大志、小松菜奈、他)
(ノスタルジー度:★★★★☆)
この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年3月11日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。