森友問題からみえる国内の状況
安倍内閣の支持率が急落している。これまで森友問題については、総理夫婦の危機管理問題だと指摘してきた。忖度という言葉が流行っている様だが、霞ヶ関の役人がそこまで変なことをするか疑問だったからである。ところが実際には、籠池氏という口八丁のタイプの人間でさえ、これだけの問題を引き起こした。もし、より悪質な相手だったり、そこに外交が絡めば、問題は今回どころの比ではなく深刻化し、安全保障の脅威にもつながりかねない。総理夫婦の危機管理問題は国家の安全保障問題に繋がりかねないと考えるべきだ。
その上で、財務省が公文書の書き換えをするに至って、単に官僚の公文書管理より構造的な問題が横たわっていたことに気づかされた。それは、省庁幹部の人事を握る内閣人事局が安倍内閣の著しく強い権力の源になっていたことである。官僚の自己保身は古今東西知らないものはいないが、公文書の書き換えをするほどになれば、ふつうは権力中枢と共謀する。しかし、いかに政治的圧力があるとは言え、よほど逃げ場がなくなった場合でないと、官僚自らが終身雇用の組織で矩を越えることはないだろう。今回のことが明るみに出たのは1人の職員の自殺からだが、余程の思いをされたのだと思う。お亡くなりになった方のご冥福を心からお祈り申し上げる。
そもそも、内閣人事局は民間との交流を活発化することを予定していた。官僚組織をよりオープンにするために創設されながら、結局閉鎖的に運用されれば、権力は歪さを増してしまう。他方、過去の自民党においては、官僚は、反主流派を利用しながら、自らに降りかかる政治的な圧力をうまく逃がしていたのだろうが、与党内の反主流派に全く力がない、あるいは反主流派自体が存在しないために、追い詰められたとも考えられる。
佐川氏の証人喚問が決まり、誰がどういう理由でいつ、どのように、どうしたという話はこれから更に深堀りされるのだろうが、詰まるところ、権力側には緊張感がなくなっていた。迷走する野党の存在が与党の緊張感を失わせ、自民党内では主流派への対抗勢力の覇気の無さが、自らの多様性を奪っていると言える。権力の歪みを、実は与野党ともに許してきたという構図なのだ。
今こそ拉致問題の解決を
さて、本稿はここからがメインである。この状況に至って、ついに私は、甚だ逆説的ではあるが党派を超えて、安倍内閣の置かれた状況に強い期待を抱くようになった。なぜなら、拉致問題の解決に推進力が強く働くからである。安倍内閣については、方向性に違いこそあれ、経済政策、憲法改正を含む安全保障政策については十分な熱意を感じていた。
しかし拉致問題となると、これまでは「やってる感」は醸し出しても具体的な進展となると甚だ心もとなかった。もちろん、日本の経済制裁がうまく効かず、北朝鮮側をその気にさせることができなかったことが第一にある。ただ、横田早紀江さんが「これまで政府を信じてきてよかったのか」と発言されたことは重い。ここにきて安倍内閣は支持率が急落し、総裁選を控えた今、本能的に強烈に、外交的成果を求めている。そういう状況に追い込まれたのだ。
彼らの不幸中の幸いは、トランプ大統領である。先日なされた5月までに米朝首脳会談を行う旨の電撃的な発表は、日本のみならずアメリカでも同様に違和感をもって迎えられた。そんな中、もしこれが本当に実現するならば、大きな成果を得てもらわねばならない。国内で中間選挙を控えたトランプ大統領としても同じ思いのはずだ。
トランプ大統領が本気で成果を求め、「北朝鮮の譲歩」を引き出せるならば、日本にとってもプラスになる。
「北朝鮮の譲歩」とはどのようなものだろうか
通常考えられるのは、核開発の不可逆的な放棄、大陸間弾道ミサイルの開発放棄等が挙げられるだろう。しかし、もしこのレベルの成果で首脳会談が終わるとせば期待外れだ。ここでまさに拉致問題について大きな前進があるべきだ。他方、北朝鮮国内の状況であるが、有識者によれば、一部自由経済がスタートし、エリートの経済レベルは上がったと言う。国民全般に配給しなければならない経済状況を脱しつつあるとのことだ。とすれば、核ミサイル開発の原資があるというのも頷ける。
昨年の国連制裁、特に中国からの制裁がここに大きな打撃を与え、今後はレベルが上がった経済を失う恐れが出て来ているのではないか。だからこそ、北朝鮮は対話を望んでいる可能性がある。金正恩体制がそんなに簡単に崩壊するとは思えないが、若い独裁者ゆえに今後ずっとアメリカとの緊張関係を続けるよりは、ある程度の共存共栄を望む可能性もある。とすれば、今回はかなりの前進が期待できるのではないか。
日本は北朝鮮に鈴を付けることは出来ないが、安倍総理には何とかトランプ大統領に鈴を付けてもらいたい。実は、とあるアメリカの有識者からも、トランプ大統領に鈴を付けられるのは安倍総理だけだと聞いたことがある。これまでのアメリカ側からは考えられない発言だが、アメリカ人自らがトランプ大統領との意思疎通に大きな困難を感じているようだ。
森友問題で窮地に追い込まれている安倍総理だからこそ、今こそ拉致問題解決に向けて全力を傾けるべきだ。私は無所属県民党として先の選挙を戦った。新潟県人として、党派を超えて、拉致問題解決に向けて、安倍内閣が置かれた状況に心から期待したい。
編集部より:この記事は、衆議院議員の鷲尾英一郎氏(無所属、新潟2区)の公式ブログ 2018年3月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は鷲尾英一郎の日記をご覧ください。