料理で世界を動かす!『美味礼賛』

「料理で世界を動かす!」

この言葉を改めて思い起こした。辻調理師専門学校の創設者・辻静雄さんを描いた『美味礼賛』を読んだからだ。


(大阪・あべの辻調理師専門学校にて)

前任の鹿児島県長島町では、日本の自治体で初めて辻調理師専門学校と包括協定を締結。生産者とシェフの交流事業や、田舎における美食文化の創造(ガストロノミーアイランド)に力を入れた。

⇒ 規格外のジャガイモこそ欲しいもの~シェフと生産者の交流で気づいたこと〜

辻調理師専門学校の先生方から何度も伺ったことが、「料理で世界を動かす!」だ。

辻調理師専門学校を創設した1960年代、フランス料理と言えば、ポタージュ、平目のムニエル、ステーキなどに限られ、それらも本物とはかけ離れたものばかりだった。

⇒ 本物のフランス料理を伝えたい。日本一の調理師専門学校を作りたい。

国内のホテル、レストランでは飽き足らず、多額の費用をかけて渡仏。ほとんどの星付きレストランを食べ歩いた。それぞれのレストランで深く意見交換し、信頼関係を築いたという。

最終のできあがりの味は、どんなに才能があるコックでも想像がつかない。それを教えてやれる人間がいないかぎりね」(P175)という恩師の言葉を胸に刻んで、とにかく舌で味を覚え込む。

私自身も現場を訪ね歩き、相手の懐に飛び込んで10年以上になるが、辻静雄さんも(スケールは違っても)私と同じようなことを続けられていたことが分かり、一つの道標になった。


(テーブルや椅子の位置や形にいたるまで、辻調理師専門学校では高いレベルで、基本を体で覚えられるよう設計されている。)

その上で、辻静雄さんは、手の抜き方も教える。
「化学調味料を入れるという方法もある。もしそれを食べた客が本物のフォンの味を知らなければ、三キロの骨と化学調味料だけで味を出したフォンでも、きっとおいしいといって食べてくれると思うよ。料理とはそういうものなんだ。
だからきみたちは、この学校ではいろいろなことを覚えて行かなければならない。もしきみたちが、将来これ以上はないという料理をつくったとしても、それを食べてくれる客がいなかったら、商売として成立しないからだ。
その場合、きみたち店の立地条件や客層を考えて、それに合った原価で料理をつくらなければならない。しかし、どういう場合でも、こうあらねばならぬという本物の料理は知っておかなければならないそれを知らなかったら、どのぐらい手を抜くかということも分からないからだ。」(P259)

総じて、この本は、フランス料理のつくり方を丁寧に伝える点でもとても優れているが、晩年の葛藤や孤独、気持ちの整理までも見事に描いた優れた生き方の教科書でもあり、熟成されたワインのように重層的で味わい深い。

初版から20年以上経っても全く色褪せない。お薦め!☆☆☆

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<井上貴至 プロフィール>

<井上貴至の働き方・公私一致>
東京大学校友会ニュース「社会課題に挑戦する卒業生たち
学生・卒業生への熱いメッセージです!

<井上貴至の提言>
間抜けな行政に、旬の秋刀魚を!


編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2018年3月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。