有罪率99%以上というのは恥ずべき数字だ!

荘司 雅彦

日本の刑事裁判の有罪率は、常に99%以上になっている。

日本の検察官が優秀だという理由では決してない。
公判が維持できて、確実に有罪に持って行ける事件だけを起訴している結果、99%以上になっているに過ぎない。

刑事訴訟法の大原則である「無罪推定原則」に照らすと、これは一見好ましいように思えるが、実はそうではない。
逮捕、勾留、勾留延長と20日以上も身柄を拘束して厳しく取り調べをしておきながら、有罪にもっていける証拠が揃わないとなると、「起訴猶予」や「処分保留」ということで被疑者は釈放される。

何の理由も示されないまま釈放された者としては、たまったものじゃない。
世間から「罪を犯して逮捕された」という汚名を着せられたままなので、社会的評価に関わる大問題だ。とりわけ、人口の少ない地方だと「罪を犯して逮捕された」という悪評が一気に伝わるので、自営業者などは事業の存亡にも関わってくる。

かつて、20日以上勾留されて「処分保留」で釈放された被疑者を弁護したとき、担当検察官に「せめて一言謝ってくれませんか?」と言ったら、「冗談じゃない。二度と犯罪を犯さないようキツく言っておいて下さい」と逆ギレされた。当該被疑者は、数度にわたる接見で真摯に「やっていない」と訴えていたので、私の心証は確実にシロだった。

無罪判決が出ると、検察官だけでなく検察庁の失点になる。
減点主義のお役所仕事なので出世にも響くのだろう。だから、いかな凶悪犯であっても有罪にできなければ起訴できない。

凶悪犯の場合は世間の目があるので軽々と釈放できない。
当然、有罪にすべく強引な取り調べをして「虚偽の自白」を取ろうとする。検察が無罪判決に萎縮するため、警察も証拠が固まらない事件には着手をためらうようになる。

億単位の現金が反社会的勢力に流れた恐れが高いとして、私も含め何名もの弁護士が県警をせっついたが「万一負け戦になったら嫌だ」という理由で動いてくれなかった。

有罪率99%以上という結果は、このように検察にとって恥ずべき数字であって誇るべき数字ではない。
刑事司法がきちんと機能するためには、私は有罪率70%くらいが望ましいと考える。自白事件が多いときは80%くらいが適正かもしれない。

いずれにしても、疑義のある事件については、密室で決めるのではなく公開の法廷でシロクロをはっきりさせるのが、本来あるべき姿だ。

荘司 雅彦
講談社
2006-08-08

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。