日銀の雨宮副総裁はIMF・金融庁・日本銀行共催 FinTechコンファレンスにおける挨拶のなかで、中央銀行が発行するデジタル通貨に関してコメントしていた。
日銀を含め多くの中央銀行は、歴史的には、支払決済手段の濫立やこれに伴う混乱に対処するために誕生した。中央銀行の登場により、それまでの、「数多くの支払決済手段の信頼性をいちいち調べなければいけない状況」から脱却し、支払決済システムにおける情報処理コストは大きく低減したと雨宮副総裁は指摘している(日銀のサイトにアップされている挨拶の邦訳より引用)。
日銀が発行する日銀券を用いて支払いを行った場合には、相手がその受取りを拒絶することができない、つまり日銀券は「法貨としての強制通用力」を持っている。これはつまり日本国内で円を使う場合に、日銀券は制限なく使用できることになる。
中央銀行は銀行券と中央銀行預金の供給に特化する一方で、民間銀行はこれを核とする信用創造活動を通じて、広義マネーとしての預金通貨を供給している。中央銀行と民間銀行による二層構造は、通貨制度の安定性と効率性を両立させる、歴史的知恵であったと言える(挨拶の邦訳より引用)。
このため、もし中央銀行がデジタル通貨を自ら発行するとなると、単純化していえば、一般の家計や企業が中央銀行に直接口座を持つことになり、通貨制度の二層構造や、民間銀行を通じた資金仲介などに、大きな影響を及ぼす可能性があると雨宮副総裁は指摘している。
南米ウルグアイの中央銀行はブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した「法定デジタル通貨」の試験運用を開始した。スウェーデン中銀による「eクローナ」構想、中国人民銀行による「法定数字貨幣」の計画、オランダ「DNBcoin」の開発、カナダの「CAD-coin」など世界各国で研究が進んでるとされ、日銀も研究は進めていると思われる。
しかし、現実的に我々が日銀に口座を持って、決済を行うということは技術的なものだけでなく、民間銀行の業務の在り方にも大きな影響を与えかねない。歴史によって生まれた通貨制度の二層構造が、いまのところ金融経済にとってはベターなものであり、そこに利便性の面だけで、中央銀行がデジタル通貨を発行するとなれば、金融のシステムが大きく変化する可能性もありうる。
また、それによって効率的ではあるものの、個人や企業の資金の流れが一元管理されてしまうということにもなりかねない。現状ではキャッシュレス化の流れは必要なのかもしれないが、そのために中央銀行がデジタル通貨を発行するということはあまり現実的なものではないと思われる。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。