日米首脳会談は終わったものの……
日本側から急遽打診した日米首脳会談が終わりました。安倍首相とトランプ大統領との会談内容は、主に北朝鮮問題と通商問題だったとされており、その両者について白熱した議論が交わされたものと報道されています。
トランプ大統領は共同記者会見で「拉致被害者が日本に帰れることを大事に考えています。そして私はこのことをシンゾーに約束した」と述べています。
トランプ大統領のコメントは、現在の日本が単独で北朝鮮に対して毅然とした態度を取って拉致被害者を返還させることはほぼ不可能であり、安倍首相もそのことを認識しているために拉致問題をスポイルされないように再度トランプ大統領に念押しした結果と言えます。
しかし、北朝鮮との問題で最大の関心事は「非核化」であることは明らかです。そのため、トランプ大統領が拉致問題に関する口約束をリップサービスではなく、どこまで本気で取り組むかは未知数だと思われます。
トランプ大統領が最も求めるディールは中間選挙の勝利
トランプ大統領が対北交渉に前向きな姿勢を見せている理由は、北朝鮮の核問題をめぐる安全保障上の問題だけではありません。トランプ大統領は昨年末からの連邦上院・下院の補欠選挙で連敗しており、11月の中間選挙の結果次第では政権の屋台骨が大いに揺らぐ微妙な政治的立場に立たされています。
特に、トランプ大統領の支持率は「経済政策の支持率は高く、外交政策の支持率が低い」という傾向を示しており、トランプ大統領は支持回復のために外交上の顕著な成果を必要としています。米朝対話を前向きに進める理由として、トランプ大統領の国内政局上の動機に注視することが必要です。
この状況下では非核化への道筋をつけることに重点が置かれて、場合によっては拉致問題は議題の脇に追いやられてしまう可能性があります。したがって、日本政府及び与党自民党は「拉致問題を解決すること」が「トランプ大統領の支持率上昇につながる」という演出を行う必要があります。
トランプ大統領の同盟国との『約束』を選挙民に売り込め
トランプ大統領にとって死活的に重要な要素は中間選挙に勝利することです。日本政府及び与党自民党は、この米国政権の最大のウィークポイントを突いた政治宣伝キャンペーンを張るべきです。
具体的には、「安倍首相はトランプ大統領が同盟国・日本と拉致被害者を取り戻すと約束したことに感謝・信頼をしている」「安倍首相トランプ大統領を信頼して貿易関係を改善している」という内容のCMを米朝会談までの間にTV・新聞などに徹底的に掲載していくことが重要です。
たとえば、FOX、ワシントンタイムズ、The National Reviewのような共和党支持者ご用達メディアに焦点を絞ったキャンペーンを実施し、「北朝鮮外交の成功目標に日米の信頼関係の維持という要素が含まれること」を共和党支持者に印象付けるべきです。特に上院の改選州に関しては念入りにメディアキャンペーンを行うべきです。
安倍首相・外務大臣・自民党幹部らが積極的に米国メディアに露出することが必要です。そのためには、外務省自体や彼らが普段から雇っているロビイストをフル回転させることが望まれます。むしろ、この日のために日本の納税者は外交官に税金を払っていると言えるでしょう。民主主義国を相手にするには相手国の世論に働きかけることが重要であることは、中国が対米貿易戦争の中で大豆などの農産物への関税をかけた際の米国側のセンシティブな反応でも顕著に証明されたように思われます。
トランプ大統領の口約束をリップサービスで終わらせるのではなく、実質を持った約束としていくためには、米国製品を購入することやゴルフ接待を受けるだけでは不足です。相手が本当に欲しがっているものと自分が欲しいものを一致させる作業が必要です。今こそ、日本の外交力の総力を投じてトランプ大統領が本気で動かざるを得ない環境を作るべきでしょう。
本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。