あす南北首脳会談:金正恩は北京で何を話し、約束したのか?

宇山 卓栄

朝鮮中央通信より:編集部

「唇亡歯寒」

先月、突如、金正恩は特別列車で北京を訪れた。北朝鮮は米朝首脳会談を控え、自分たちのバックには中国がいることを示した。かつて、毛沢東は中国と北朝鮮との関係を「唇亡歯寒」と表現した。これは唇が亡くなれば、歯は寒くなるという意味の言葉で、互いの親密さを表している。

元々、金正恩は中国を「千年の宿敵」と呼び、毛嫌いしていた。金正恩は2013年、親中派の代表格であった叔父の張成沢(チャン・ソンテク)を処刑し、これ以降、中国との関係が急速に冷え込んだ。2016年、中国で開催されたG20首脳会議に合わせて、弾道ミサイルを発射するなど、中国に対する挑発的行為を行い、怒った習近平はアメリカや日本に同調して、北朝鮮に対する新たな制裁に賛成した。

しかし、どのように関係が冷え込んだとしても、北朝鮮にとって、中国は事実上の「庇護者」であるので、危機に追い込まれれば、結局は中国にすがろうとする。中国もまた、北朝鮮の利用価値を認めており、やはり、両者の関係は毛沢東のいう「唇亡歯寒」なのだ。

習・金会談の中身とは?

27日の南北首脳会談、5月か6月に予定されている米朝首脳会談を読むには、北朝鮮と中国との関係を読むことが一番重要な鍵となる。「庇護者」たる中国の意志が今後の行く末を決定付けるからだ。

金正恩は北京で何を話し、何を約束したのだろうか。その会談の中身に関して、私は遠藤誉教授(東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授)の発言に注目する。遠藤教授によると、習近平は金正恩に対し、経済の改革開放を推進するように求めたという。軍事(核開発)よりも経済に力を注ぐことが北朝鮮にとって得策であることを金正恩に理解させたというのだ。

鄧小平以来のどの政権になっても、間断なく「中国式の改革開放」を北朝鮮に要求してきた。金正恩政権は2013年から経済建設と核戦力建設の並進路線を唱えてきたが、今や核戦力の建設は終えたと勝利宣言している。ようやく経済建設に全力を注ぐ状況になったにちがいない。今後の北朝鮮はまさに「中国式の改革開放」満開といったところだろう。
(遠藤誉『中国、北朝鮮を「中国式改革開放」へ誘導』、4月23日、Newsweek掲載記事より)

遠藤教授は、今後、北朝鮮が中国と経済的に共同歩調をとりながら、改革開放を演出すると説く。北朝鮮が変貌しはじめるということを国際社会に見せつけながら、一方で核開発の「可逆的凍結」というレトリックを用い、実質的な核保有を既成事実化させていく。それも、中国を巻き込んだ形で。

これは、一種の撹乱作戦のようなものだが、充分にあり得ることだと思う。

どのように改革開放するのか?
さらに、遠藤教授は北京での習・金会談後の中国と北朝鮮の動きについて、以下の二点に言及している。

○中国は北朝鮮に、これまで一貫して、対話路線と改革開放路線を要求してきた。これが実りはじめたと中国メディアが報道していること。

○会談後、金正恩が「強力な社会主義経済を建設して、人民の生活レベルを画期的に向上させる闘いに全力を注ぐ」と述べていること。

これらは北朝鮮が改革開放路線に踏み切ったことを示す根拠であるという。
しかし、疑問も生ずる。本当に、北朝鮮にとって、改革開放が可能なのだろうか。金正恩の父の金正日は2000年5月、電撃訪中して以降、2011年まで合計8回、訪中している。

江沢民や胡錦濤は金正日に上海の経済特区を見学させるなどして、共産主義体制を維持しながら、資本主義的な市場開放が可能であることを示し、中国に倣い、改革開放路線を歩むべきと説得した。

しかし、金正日はこれを拒否した。経済の自由化は政治の自由化を求める動きとなるのは明白であり、金一族の世襲支配体制を維持できなくなると考えたからだ。市場開放は北朝鮮にとって、自殺行為だ。

このことは金正恩らの体制にとっても、同じではないかと思う。ただし、それは改革開放の程度による。ある一定の秩序とバランスを保ちながら、漸次進めていく、そのような方法に、金正恩ら首脳部は何らかの自信を抱いている可能性はある。

いずれにしても、これらは北朝鮮が核保有を既成事実化させようとするための撹乱作戦となるであろうことはよく認識しておくべきだ。