独のユダヤ人社会で高まる危機感

ドイツ各地で25日、反ユダヤ主義の台頭に抗議するデモ集会が行われた。デモ参加者はユダヤ人だけではなく、一般市民もユダヤ教のシンボル、キッパを頭に被って連帯参加し、反ユダヤ主義の台頭に抗議を表明した。

▲ユダヤ人との共存を訴えるデモ風景(2018年1月、ドイツのユダヤ人中央評議会の公式サイトから)

デモは、首都ベルリン、ケルン、エアフルト(テューリンゲン州の州都)、マグデブルク(ザクセン=アンハルト州の州都)、ポツダム(ブランデンブルク州の州都)などで行われた。
警察当局の発表では、ベルリンのシャルロッテンブルク区のユダヤ教会前で約2500人がデモ集会に参加。デモ参加者の中には、脅迫され、持っていたイスラエルの旗を破られたり、ツバをかけられたりしたという。

デモ集会が行われた直接の契機は今月17日、ベルリンで21歳のイスラエル人とその友人が路上でアラブ語を話す3人の男性グループから襲撃されたことだ。イスラエル人はキッパを着けていた。容疑者はシリア出身のパレスチナ人で2015年からドイツに住んでいた。

ドイツのユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュースター会長は、「ドイツ国内で台頭するユダヤ憎悪を看過してはならない。多くのユダヤ人は公共の場で自身の宗教を明らかにすることに恐怖を感じ出している」と述べた。

シュースター会長の説明によると、ユダヤ人家庭では息子たちには、「外ではキッパを被らないか、野球帽を被ってキッパを隠すように」と、娘たちには「地下鉄では『ダビデの星』のネックレスやペンダントを隠すように」と注意している。また、今年はイスラエル建国70年を迎えたが、Tシャツにイスラエル国旗が描かれたものは着ないように呼びかけているという。ちなみに、ドイツに住むユダヤ人の数が12万人から最大20万人と推定されている。

イスラエルの著名な野党メンバー、ヤイル・ラピッド元財務相は、「ユダヤ人がキッパを付けて外に出かけられないということは異常だ。われわれは恐怖を感じながら生きていかなければならない時代は過ぎたと考えてきたが、そうではなかった」(オーストリア通信)と述べている。

ドイツで今月、“欧州版グラミー賞”と呼ばれる「エコー賞」に反ユダヤ主義のラップを歌うデュオ、Kollegah・ Farid Bang が受賞した。多くの音楽家たちは、2人の受賞に抗議し、ドイツ音楽協会は「エコー賞」の廃止に追い込まれている。

ドイツで反ユダヤ主義といえばネオナチや極右派の専売特許といった感じだったが、ここにきてイスラム系移民のユダヤ憎悪が席巻してきた。
ドイツでは反ユダヤ主義の言動で告訴された件数は年平均1200件から1800件だ。これまでその90%は極右派グループやネオナチたちの仕業だったが、過去2年間でイスラム系住民の反ユダヤ主義の言動が増えてきている。

ドイツでは2015年、中東・北アフリカ諸国から100万人を超えるイスラム系難民が殺到したが、「結果として反ユダヤ主義を輸入した」という声が聞かれる。なぜならば、多くの難民は反ユダヤ主義が社会に深く刻み込まれたアラブ諸国出身だからだ。彼らは小さい時から、ユダヤ人は悪魔だ、世界の悪はユダヤ民族の仕業だ、といった教育を受けている。換言すれば、イスラム教国出身の難民には反ユダヤ主義のDNAが流れている、というわけだ(「イスラム系移民のユダヤ人憎悪」2017年12月22日参考)。

なお、2015年の難民殺到時、難民ウエルカム政策を推進したメルケル首相は「如何なる反ユダヤ主義もドイツでは絶対に受け入れられない」と強調している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。