ドイツで反ユダヤ主義といえばこれまでネオナチや極右派の専売特許といった感じだったが、ここにきてユダヤ人への憎悪はドイツに住むイスラム系移民によるものが増えてきた。独週刊誌シュピーゲル最新号(12月16日号)が5頁にわたってドイツの反ユダヤ主義の現状をルポしている。以下、その概要を紹介する。
トランプ米大統領は今月6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転させると表明、エルサレムをイスラエルの首都と認定する意向を表明したが、その直後、ドイツ国内のパレスチナ人などアラブ系住民が一斉にデモ行進し、強い不満を表明したばかりだ。一部で、デモ参加者はイスラエルの国旗を焼き、トランプ大統領の写真を破るなどした。シュピーゲル誌によると、1人のパレスチナ人女性は、「エルサレムはイスラエルの首都ではない。イスラエルの首都は地獄だ」と激怒している。
ドイツでは反ユダヤ主義の言動で告訴された件数は年平均1200件から1800件だ。これまでその90%は極右派グループやネオナチたちの仕業だったが、「過去2年間でイスラム系住民の反ユダヤ主義の言動が増えてきている」という。
2年前といえば、2015年、100万人を超える中東・北アフリカ諸国からのイスラム系難民がドイツに殺到した時期と重なる。だから「イスラム系難民の収容は反ユダヤ主義を輸入したことになった」という見解が出てくるわけだ。
与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の幹部、イエンス・シュパーン氏は、「多くの難民は反ユダヤ主義が社会に深く刻み込まれたアラブ諸国から来た人たちだ。彼らは母国でユダヤ人は悪魔だ。世界の悪はユダヤ民族の仕業だといった教育を小さな時から受けてきている」と指摘。ドイツ治安関係者も、「アラブ系住民のユダヤ人憎悪は深刻なテーマだ」と主張しているほどだ。
ドイツに住むユダヤ人たちは反ユダヤ主義が拡大してきたことを受け、キッパ(Kippa、男性が被る帽子のようなもの)などユダヤ教のシンボルを身に着けない、公共の場でヘブライ語を喋らない、といった危機管理に乗り出している。また、学校でイスラム系生徒からモビング(嫌がらせ)されたユダヤ系生徒は学校を移り、私立学校に転校するケースが出てきている。ユダヤ系家庭では子供が誕生してもユダヤ系と分かる名前を避ける傾向すら出てきているという。
メルケル首相は、「如何なる反ユダヤ主義的言動に対しても厳格に処罰しなければならない」と警告を発し、治安関係者は、「極右派による反ユダヤ主義的言動だけではなく、イスラム系の反ユダヤ主義にも対応しなければならない」と強調している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。