ブロックチェーンは地方コミュニティを救うのか

今日は良い天気ですね。みなさんゴールデンウィークを楽しまれていますか?

さて、京都大学公共政策大学院教授で PwCあらた有限責任監査法人スペシャルアドバイザー岩下直行さんにインスパイアされてこの記事を書きます。岩下さんはNews Picksで「【反論】ブロックチェーンは「魔法の杖」ではない」という記事を書かれ、また、「超スマート社会(Society 5.0)におけるトラストの在り方」で発表されています。

まず、岩下直行さんのプレゼンにある以下の資料をご覧ください。2016年から円建てでのBitCoinが取引構成比が急激に増え、今現在でもマジョリティを占めているのがわかります。

これは一体どういうことなんでしょうか?もちろん円建て取引=日本人の取引というわけではないでしょうが、日本でBitCoinが取りざたされているのは事実です。しかも、2016年時点では、まだ100万円越えといったバブルは起きていな買ったときに日本人が盛んにBitCoinにコミットしていった理由は一体何なのでしょうか?

出典:http://www.jnsa.org/seminar/pki-day/2018/data/180417_am2_iwashita.pdf

多分いくつかの仮説が既にあるのでしょう。例えば、日銀のマイナス金利導入による金余り、日本政府の規制が他国に比して緩く取引所が多く立ち上がった、日本人はFXなどのような取引をゲーム感覚でやるのが好きでその延長でビットコインが選好されたなどが考えられます。

でも私はこう思うのです。日本人は、もともと他国の人々に比べてBitCoinに親和的な性向があるんではないかと。一言でいうゆるく繋がる関係性が好きだということです。

高度成長期が終わり、平成の失われた20年の中で、グローバリズムという拝金主義が席巻し、国境を超えて、お金と情報と人がダイナミックに移動する流れに日本経済は、日本企業は、日本人は取り残されました。そして、グローバリズムはその当然の帰結として、富の偏在化をもたらし、欧米や韓国の中流層の没落を引き起こします。一方、多数決を原理とする民主主義はそのままだったので、割を食ったサイレントマジョリティがトランプを大統領に選び、英国のEU離脱、欧州での極右政党、韓国での文大統領という極左政権の現出をもたらし、グローバリズムにストップをかけようとしているのが今の状況です。

インターネットの世界でも、グローバリズムの象徴として槍玉に挙げられているのが、FacebookやGoogleといった情報独占企業で、彼らは今様々な角度から指弾を浴びています。そこで、ブロックチェーンやBitCoinなどがそのアンチテーゼとしてもてはやされているのが昨今のトレンドです。

BitCoinの2つの大きな特質は「非中央集権」と「トラストレス」です。

BitCoinの創始者とされるサトシ・ナカモトは「中央集権」を手間とお金がかかるものとして嫌がっていました。でも中央でオーソリティ(権威者)がいないと、第三者同士の取引は成立しない。

そこで、サトシ・ナカモトは「トラストレス」という考えを持ち込みます。「トラストレスとは信頼するオーソリエィが必要がない」という事です。しかし、もし「誰も何も信頼していない」のであれば利用もしません。「ビットコインシステム」というものは少なくとも信頼されて世界中で利用されます。では、トラストレスとは何がトラストレスなのでしょうか?トラストレスとは、管理者である「マイニング参加者」がどんな参加者か素性を知らなくても信頼できる、という事です。わかりにくいですね。このあたりは是非岩下さんの論考をご覧ください。

ところが、このシステム2013年に転換期を迎えます。そして2016年から日本人が飛びつき始めます。では何が転換期だったのかは、是非岩下さんの論考をお読みください。一部引用させていただくと以下の通りです。

2013年まで

利用者はギーク限定 ・自分のマシンでマイニング ・鍵ペアも自分で生成 ・秘密鍵も自分で管理。だから、「安価で安全なブロックチェーン」が作れた。 ・利用者は自分で自分のシステムを守れる ・マイニングは多くの利用者のノードで分担 ・秘密鍵の紛失や盗難は自己責任
⇒「トラストレス」の誕生
• すべてがオンチェーンの時代。
• 各利用者が秘密鍵さえ安全に管理していれば、信頼できる第 三者は不要となった。

2013年以降

利用者にビジネス関係者や個人投資家が混じるようになる。
• GPUやASICによるマイニング・ファームの誕生。
• 鍵ペアの生成も、秘密鍵管理も他人任せ

→守ってあげなければならない「弱い利用者」が生まれる。 取引所は「トラストレスの中のトラスト」

• 非中央集権を標榜した仮想通貨の取引の大本が、「信頼でき る第三者」にならなければならないという矛盾。取引所が一括して仮想通貨を混蔵保管する仕組みの発達
• オフチェーン取引が圧倒的多数になる。
• そうでなければ、百万人単位の利用者を管理できない。
• Bitfinex事件は、そうした限界から発生した。

⇒ それを守るためのコールドウォレット導入が進む。

要するに、BitCoinが日本人のアーリーアダプターが興味を持ち出したころには「トラストレス」の基本理念が崩れ取引所を「トラスト」する仕組みが出来上がっていったというのが私の解釈です。図にすると以下のようになります。

さて、ここからが私が申し上げたいことです。人口減少で現状の資本主義経済では立ち行かなくなった日本の限界集落を、救うのにブロックチェーンは有効なんじゃないかということです。

さらに、それには、ブロックチェーンを「100%ディストラスト&100%分散」でなくて、「ある程度トラストかつある程度分散」にしてやったほうが少なくとも日本では馴染むんじゃないかということです。

私は決して国粋主義者ではありませんが、日本人の気質と海外の多くの国々の気質が大きく異なるんじゃないのかと思うのです。

まず「ある程度トラスト」です。

よくシェア経済は中国が先行するといいます。シェア自転車などがその例です。自転車にオートロックがかかっていて、スマホをかざすと解錠されて自動決済されていくというアレです。で、こんな笑い話があって、「もうシェア自転車はレッドオーシャンだ。全く新しいシェア事業を思いついた。シェア傘だ。スマホで傘を解錠して課金する仕組み。どうだすごいだろ」と。でも日本にはもう40年以上前に駅には駅に傘がたくさん置いてあいいてあって、施錠解錠などせずとも、信用確認せずとも無料でシェアリングしていたんですよね。だって、みんな律儀に返してくれるから。今は廉価のビニール傘が売店で売られるようになって廃れてしまったけれど。

ディストラストは性悪説、トラストは性善説に立っているんですよね。で、日本人は今も昔も集団志向のムラ社会で道徳心が高い人が多いので(例外もいます)、チートすることを前提にしない仕組みでもいいんじゃないかと思うんですね。

次に「ある程度分散」です。

日本人は「お上に弱い」といいますよね。でもそれは「日本政府」とか「権威」とかに畏怖の念を持っているということではないと思うんです。日本はムラ社会なんです。昔は物理的に村で社会が閉じていましたが、今は、日本国全体がムラだというのが私の考えです。でその統治原理は何かというと、「空気」です。自民党や安倍政権が絶対的な権力を持っているわけではない。「お天道様が見ている」「八百万の神」です、一億人全員がなんとなくコンセンサスを作っているんです。一昔前はテレビが、今はネットがその空気感の醸成の媒体となっています。だから、日本人はもともと分散型なんです。

たまたま日本円を統一通貨でつかっているだけです。欧州のような勝ち取った市民権由来のユーロや、パックスアメリカーナのドルと円はその国民の信認が根本的に異なるんではないでしょうか。だから、「通貨発行権を取り戻す」とシリコンバレーの人が叫んでも、イノベーターやギークの心を捉えても、アーリーマジョリティには「はてさて、それってなんなの?」と響かないともうのです。

誤解を恐れずに極論すれば、日本人の他者との関係、そしてその決済手段としての通貨観は「分散」と「トラスト」を前提としていて、むちゃくちゃそういったブロックチェーンに向いているということです。

コミュニケーションが濃密な時代は必要なかったのですが、「ゆるいつながり」を思考する「個」の集う「コミュニティ」には「関係性の顕在化」や「Give&Takeの価値の顕在化」という面での決済手段として「トラストで分散的な」ブロックチェーンが向いているということです。

例えば、電力システムです。今、太陽光発電と蓄電池のマイクログリッドの中央集権的な電力システムに対する総体的な価格優位性が高まりつつあります。遠くで作った電気を限界集落まで送電線を引っ張っていって送り届けるよりも、集落の入会地に太陽光パネルと蓄電池を置いて電力を供給する方が安くなるんじゃないかということです。これは、ユニバーサルサービス・ユニバーサルコストという現在の法理念を覆すことになるので、国民的な熟議が必要であります。

現状の規制緩和や技術・金融の完成度はまだまだ十分ではないので、今年や来年にそれが実現するとは思えませんが、10年スパンでは現実のものとなってくる可能性が大いにあります。

その時、40年前に隣同士で味噌や醤油を分け合ったように、、ブロックチェーンは電力や環境価値をおすそ分けするのに大変役に立つと思うのです。昔味噌や醤油を貸し借りしていたのは、実はそれは無償提供ではなく感覚的にイーブンになるようにセトルはしていたんですね。でも今や、濃密な繋がりもなく、どんぶり決済というわけにもいかないので、ゆるい繋がりを確認して、お互いの貸し借り残高を顕在化するのに軽いブロックチェーンは大変有効です。

別に電力だけではありません。食べ物だって、労働力(介護とか家の掃除とか)だって、その貸し借りの価値の顕在化とマッチング取引約定・決済の簡素化に大変役に立つと思うのです。

この辺のSociety 5.0の解がありように思えるのですが、また一つ一つ深掘りしていきますが、今日はこの辺りにさせていただきます。それではみなさんゴールデンウイークを楽しんでくださいね。

株式会社電力シェアリング代表 酒井直樹

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