5月2日、緊急に行われた、TOKIOの皆さんの記者会見ですが、今、TOKIOの皆さんが抱えていらっしゃる葛藤は、まさに依存症家族の葛藤そのものと、深い共感を覚えました。
まずリーダーの城島さんが山口さんから辞表を受け取った際に
「正直、山口が憔悴しきっていたその姿に、そうか辞めてくれ!と言えない私たちがいました。」
「答えが出せなかったことも事実です。」
といった内容のコメントをだされましたが、
これはもうまさに、離婚を迷う依存症者を配偶者に持つ家族の葛藤そのものです。
信じられない気持ち、もう一度信じたい気持ち、駆け寄って手助けしたい気持ち、手助けは本人のためにならないと律する気持ち、甘く優しい言葉をかけたい気持ち、裏切られ傷つき許せない気持ち、依存症者が問題を起こした時に、家族はこんな風に揺れ動き、自分が引き裂かれる苦しみを味わいます。
また、私たち依存症者の家族やその支援団体に衝撃が走ったのは、松岡さんの「正直、僕らは依存症だと思っていたけれど、その診断が出なかったこと」という告白です。
これにも私たちは、憤りと共に「やっぱり!」と思わずうなずいてしまいました。
まさに現在、依存症家族が直面している困難です。
依存症の診断を受けるなら、依存症の専門医にかかって欲しいのですが、依存症の世界に身をおく人間でもいない限り、依存症の専門医がどこにいるのか?普通では区別がつきません。
精神科のクリニックなどのHPには、依存症の世界では聞いたことのないお医者様でも依存症の診断をうたっているところなどゴロゴロあります。またお酒の場合は精神科にすらかかっておらず、内科を受診して診断を仰いでしまうケースも有ります。
私たちも、やっとの思いで医者に連れて行っても、「依存症までいっていない。」などと言われ、本人が否認を強め、家族が途方にくれているという相談はいくつもきます。一度など、ギャンブルのための窃盗を50件近く繰り返しているケースでも「依存症までいっていない。家族がしっかり監督しなさい」とアドバイスをした医者がおり、仲間皆で憤慨したものです。
アルコールの治療で入院したその日に、焼酎1本飲みほして依存症じゃない……?
医者が適切な依存症の診断を下せるよう、一刻も早く厚生労働省は研修制度などを整えて頂きたいです。
では、TOKIOの皆さんは、今、どんな風に振舞い、何をすればよいのか?
一言でも間違えれば、一気に叩かれる世界に身を置く皆さんですから、とても緊張し、怖いと思いますが、沢山のご家族に関わらせて貰った私から、TOKIOの皆さんに是非メッセージを送らせて頂きたいと思います。
TOKIOの皆さん、受け取った山口さんの辞表は2年間保留にして下さい。
そうすることは、皆さんにとって一番きつい選択になるはずです。
一刻も早く白黒つけた明言が欲しいマスコミにつつかれもするでしょうし、依存症に理解のない人達からも「甘い!」と言われることでしょう。
でも、保留にし、山口さんが回復するよう道をつけて欲しいのです。
回復には大体2年はかかります。
だから、山口さんがきっちり回復に取り組んでいるか?
TOKIOの皆さんは見守って頂きたいと思います。
今、辞表を受け取り、底つきを味あわせることも一つの手段ではあるでしょう。
でも、私は常に「家族がやるだけやっても回復しなかったら、その時あきらめようよ!」
とアドバイスをすることにしています。
だからTOKIOの皆さんには敢えて一番困難な道、けれども希望への道を歩いて欲しいと思います。
山口さんにとって一番辛い道は、自分はお酒で問題を起こしたのだと認め、同じ問題を起こした人たちと、自分は同じ立場なんだと受け入れ、そのスタートラインに立つ勇気を持つことです。
一般庶民の私ですら、依存症者とその家族の自助グループに行け!
と言われた時には「そんな惨めな人達と一緒にされたくない!」と思いました。
でも、その自分こそ世界で一番惨めな人間だったのです。
山口さん、そこを受け入れられるかどうかが回復のカギだと思います。
その仲間の中で、等身大の自分にへりくだることができた時から、回復という成長の道は始まるのです。
山口さん、AAか断酒会に行きましょう。
一般人に交じって、自分のやらかしてきた過去を話すのです。
依存症の診断は問題にはなりません。
自助グループというのは診断基準ではなく
お酒を「やめたい人」であれば誰でもメンバーになれるのです。
そこのハードルを謙虚に越えられれば、
自助グループが決して惨めな人の集まりでないことが分かるはず。
そのハードルの直前が一番惨めな人の集まりなのです。
依存症の治療に繋ぐと言うと
「病気のせいにして逃げるな!」という人がいます。
それは全く逆です。
「病気の治療をしなければ、償いはできない」のです。
治療をしなければ同じことを繰り返します。
治療し、回復したら、被害者とそのご家族のためにできる償いをしましょう。
そしてTOKIOの皆さんは、バッシングにめげることなく、山口さんが回復プログラムをやり遂げ、回復できたかどうかで、山口さんの進退を決めて欲しいと思います。
何故なら、その時どんな決断をしようとも、山口さんは今の山口さんではないし、その時のTOKIOの皆さんも今の皆さんではないはずです。依存症者とその家族、周囲の人間がこの病気を学び成長するということは、それだけやる価値のあることなのです。
スーパースターのTOKIOのメンバーが、依存症者の自助グループに通う……
それがどれだけ困難な道か、想像に難くありません。
でも以前にも書いたように、海外では
エミネムも、エリッククラプトンも乗り越えた道なのです。
人間は、口ではいくらでも真摯に、そして謙虚に振舞うことができます。
でも依存症は口約束では回復しません。
「行動で示すこと」それだけが回復の道なのです。
真の謙虚さは、自分はスターだというおごりを捨て、ただの「アルコールをやめられない人間」と認め、助けを求めることです。
誰だって人の助けがなければ生きられない、弱い人間だなんて認めたくありません。
だからこそTOKIOの皆さん、そして山口さんにとって一番困難な道は、依存症からの回復にチャレンジする行動をとることだと思います。
私たちはどん底から這い上がる時に、先を行っていた仲間達にこうアドバイスされてきました。
「迷ったら、一番やりたくない道を選べ!」と。
そしてこう付け加えられました。
「あなたならできる!」と。
依存症に苦しんだ経験から、同じ言葉をTOKIOのみなさんに贈らせて頂きたいと思います。
どうかこの想いが皆さんに届きますように!
編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年5月2日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。