イラン強硬派の動きに要注意

長谷川 良

ロシアのプーチン大統領と会談するイスラエルのネタニヤフ首相(2018年5月9日、モスクワで、イスラエル首相府公式サイトから、Amos Ben Gershom記者撮影)

イスラエル軍は10日、イラン軍が9日夜、イスラエル北部の占領地ゴラン高原(1967年併合)に向けてロケット弾やミサイル約20発を発射したこと受け、報復としてシリア内のイランの軍事拠点50カ所以上をミサイル攻撃したと発表した。シリア領内に駐留するイラン軍がイスラエルを攻撃したのは今回が初めて。

一方、イスラエル軍のイラン軍空爆としては近年で最大規模。ネタニヤフ首相は「イランはレッドラインを越えた」と指摘した。ロシア国防省によると、イスラエル軍は28機(F-15とF-16)の戦闘機を出動させ、70発のロケット弾を発射したという。

トルコのエルドアン大統領と電話会談するイランのロハニ大統領(2018年5月10日、イラン大統領府公式サイトから)

情報機関は「イランからの報復攻撃がある」とイスラエル側に警告を発してきた。4月9日の空爆でシリア駐在の7人のイラン軍関係者が殺害されたが、シリアとイランはイスラエル軍の責任と断定し、 テヘランはイスラエルに報復を宣言したからだ。そのため、イスラエル軍は警備体制を敷いていた。

イスラエル軍によると、ゴラン高原への攻撃はイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」によると断定。イラン軍はロケット弾(Grad型と Fadschr-5 型)を発射したが、犠牲者は出なかった。

リーベルマン国防相は10日、「シリア領内のイラン拠点のほぼ全てを攻撃した」と語った。具体的には、秘密情報拠点、 宿泊場所、軍哨兵隊、貯蔵所、偵察所などだ。

シリア政府軍からも攻撃があったが、イスラエル側は、「アサド政権にはイラン軍との戦いに干渉するなと警告した。イスラエル軍はエスカレートを願わないが、相手がイスラエルを攻撃すれば黙っていない」と強調。国営シリア・アラブ通信(SANA)によると、シリア側にもレーダー監視網や弾丸倉庫などに被害が出たという。

ちなみに、イスラエルはロシアにシリア内のイラン軍への空爆を事前に連絡したという。ネタニヤフ首相は9日、モスクワを訪問し、プーチン大統領と会見したが、「ロシアがイスラエルの軍活動を妨害することはないと信じている」と述べている。

イラン外務省のバフラム・ガセミ報道官は11日、シリア内からイラン軍がゴラン高原を攻撃したという情報に対し、「イスラエル側のでっちあげだ」と否定した。それに先立ち、イラン国家安全委員会は10日、「わが国はシリア内に軍拠点を有していない。軍事アドバイスが目的だからだ」と説明、イスラエルの主張を「プロパガンダだ」と同じように一蹴している。

イランはロシア、レバノンのヒズボラと共にアサド政権を軍事支援している。イランはシリア内に軍事拠点を構築している。イスラエルにとってシリア内にイラン軍の拠点ができることには強い警戒心がある。ネタニヤフ首相は「イランがシリア国内で軍事的プレゼンスを構築することを許さない。イスラエルを攻撃する者はその7倍の報復を受けることを覚悟すべきだ」と強調している。

メルケル独首相は10日、独アーヘンでマクロン仏大統領の本年度カール大帝賞授賞式の祝賀演説の中で中東の状況について言及、「過去数時間の出来事は、文字通り戦争かそれとも平和か、といった感じがする。状況は非常に複雑だ。関係国は自制して事に当たるべきだ」とアピールした。

今回の軍事衝突が1回きりか、イスラエルとイランの本格的な軍事衝突の幕開けかはまだ不明だ。トランプ米大統領が8日、イラン核合意の離脱を発表したこともあって、イスラエルとイラン両国の関係は一層緊迫化してきた。

懸念材料はイラン国内の強硬派の動きだ。ゴラン高原にミサイルを発射したのもイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」だ。米国がイラン核合意から離脱を宣言したことから、穏健派のロハニ大統領の立場は苦しくなってきている。それだけに、イラン国内の強硬派が主導権を奪うようなことがあれば、イスラエルとの正面軍事衝突といった最悪のシナリオは現実味を帯びてくることにもなる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。