性犯罪もみ消した豪大司教に有罪

長谷川 良

オーストラリアからショッキングなニュースがまた流れてきた。同国南オーストラリア州のアデレード大司教区のフィリップ・ウイルソン大司教(67)が1970年代、1人の神父の未成年者への性的虐待を知りながらもみ消した容疑で有罪判決を受けたという。

▲有罪判決を受けたフィリップ・ウイルソン大司教(「バチカン・ニュース」5月22日から、写真ANSA通信)

ローマ・カトリック教会では大司教といえば、ローマ法王、枢機卿に次ぐ高位聖職者だ。その聖職者が神父の性的虐待を知りながら何も対応もしなかった容疑で有罪判決を受けたわけだ。ローマ・カトリック教会の総本山のバチカン・ニュースも22日、写真付きで大司教のスキャンダルを大きく報道した。

豪ニューサウスウエルス州のニューカッスル裁判所は22日、ウイルソン大司教は、既に死去した神父( Jim Fletcher)の性犯罪を知りながら、告訴せず隠蔽したと断定した。具体的な刑罰の言い渡しは6月19日。それまで、同大司教は保釈金を払い自由の身でいる。豪教会司教会議議長のマーク・コールリッジ大司教によると、ウイルソン大司教は裁判では無罪を主張してきたという。

豪ABC放送によれば、神父によって性的虐待を受けた子供(ミサの侍者)は1976年、ウイルソン大司教に伝えたが、大司教はこれをもみ消したという。有罪判決が言い渡されると、満員の裁判所傍聴席の人々から涙と安堵の声が聞かれたという。

性的犯罪の犠牲者の1人は、「オーストラリア刑法の歴史で重要な日となった。今回の判決は、教会(組織)を守るために子供たちを狼たちの蛮行に委ねた多くの関係者に対し、刑罰追及の道を開くことになる」と評価している。

一方、ウイルソン大司教の弁護士は、ウイルソン大司教のアルツハイマーの影響を指摘し、弁明を試みる一方、「性的虐待は当時、告訴義務のある重犯罪ではなかった」という事実を強調し、大司教の無罪を主張したという。大司教は有罪判決を受け、失望を隠せなかったという。

豪教会といえば、メルボルンの予審担当のベリンダ・ウォリントン治安判事は5月1日、バチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿(76)を性犯罪容疑で正式に起訴している。ローマ法王フランシスコが2014年2月に新設したバチカン法王庁財務長官のポストに就任した同枢機卿はバチカンの職務を休職し、メルボルンの裁判所に出廷して自身の潔白を表明してきた(「バチカンNo3のペル枢機卿を起訴」2018年5月3日参考)。

豪教会の相次ぐ聖職者の不祥事にバチカンも対応に苦慮している。ウイルソン大司教は未成年者への性的虐待に関連して有罪判決を受けた豪教会の最高位聖職者の1人だ。

ウイルソン大司教の場合、裁判所の判決後、教会の訴訟手続きが行われるかはローマ法王次第という。フランシスコ法王は聖職者性犯罪に対しては厳格な姿勢を貫いてきた。教会法では、1度判決を受け、刑罰を受けた犯罪者に対しては重ねて刑罰を与えることを避けるが、教会の裁判を開くことも考えられるという。ちなみに、フランシスコ法王は2016年、聖職者の性的犯罪を隠蔽した司教に対して、その地位を解任する教会法を発布している。

ウイルソン大司教は23日、当分はその地位には留まる一方、大司教区での職務は休職する旨を明らかにしている。辞任の可能性については「もし必要ならば……」というだけに留めた。豪メディアによると、大司教は最高2年の拘禁刑を受けると予想されている。大司教は控訴するかどうかは明らかにしていない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。