世界に12億人以上の信者を抱えるローマ・カトリック教会の総本山、バチカン法王庁で1日、大きな衝撃が走った。オーストラリアのメルボルンからバチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿(76)が性犯罪容疑で正式に起訴されたというニュースが報じられたからだ。
ペル枢機卿は性犯罪容疑で起訴されたローマ・カトリック聖職者として最高位。バチカンではナンバー3の地位に当たる財務事務局長官だ。
予審担当のメルボルンのベリンダ・ウォリントン治安判事(Belinda Wallington )は「枢機卿の性犯罪容疑には十分な証拠があると判断した」と明らかにした。正式な審理は2日からスタートし、公判の日程などについて話し合われる。なお、ペル枢機卿は「公判中は出国しない」と誓約し、保釈金を払い自由の身となっている。
バチカン・ニュースによると、バチカン法王庁のグレッグ・バーク報道官(Greg Burke )は「メルボルンの司法当局の決定を真摯に受け取っている」と述べている。これまでのところ、フランシスコ法王のコメントは出ていない。
ペル枢機卿は昨年6月に訴追されたが、一貫して性犯罪容疑を否定する一方、一部メディアの中傷キャンペーンだとして抗議してきた。
ローマ法王フランシスコが2014年2月に新設したバチカン法王庁財務長官のポストに就任した同枢機卿はバチカンの職務を休職し、メルボルンの裁判所に出廷して自身の潔白を表明してきた。
予審は約4週間続き、3月29日に終わった。その期間中に、主要な原告の1人が死去したこともあって、ペル枢機卿の起訴は避けられるのではないか、といった観測が一時流れていた。
同枢機卿の未成年者虐待容疑は既に数年前からくすぶっていた。ぺル枢機卿の場合、性犯罪の隠蔽問題ではなく、枢機卿自身が故郷のオーストラリアのビクトリア州のバララット市(Ballarat)時代、教会合唱隊の少年たちを礼拝後やプールで性的虐待を繰り返した犯罪容疑だ。
ペル枢機卿の性的虐待容疑について、ペル被害者の生々しい証言を集めた著書「ペル枢機卿の躍進と蹉跌」(仮題)の著者、ジャーナリストのルイス・ミリガン女史は「1990年代にもメルボルン大司教就任後、ペル枢機卿は2人の合唱隊の少年に性的虐待を行った」と書いている。同女史によると、2人の少年の1人は2014年、麻薬中毒で死去。2人目の犠牲者は「ティーンエイジャー時代にペル枢機卿に性的虐待を受けた」と証言したという。(「『教会』は性犯罪の共犯者だった」2017年12月20日参考)
それに対し、ペル枢機卿の弁護側は予審で、「ミリガン女史はその著書の中で事実を歪曲している。そしてペル枢機卿への評価を恣意的に傷つけている」と反論してきた。
ちなみに、オーストラリアのローマ・カトリック教会聖職者による未成年者への性的虐待事件を調査してきた「聖職者性犯罪調査王立委員会」(2013年設置)が昨年2月公表した報告書によると、同国のカトリック教会所属の修道院関連施設で1950年から2009年の間に、オーストラリア教会全聖職者の7%が性的虐待に関与しており、ある施設ではその割合は40%にもなるという(「豪教会聖職者の『性犯罪』の衝撃」2017年2月9日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。