これまで私としては、ギャンブル依存症対策基本法のことで、かかりっきりになっておりましたが、いよいよIR法案が内閣委員会でも質疑が始まり、大詰めとなって参りました。
これまでIR法案の方にまで手が回らなかったというのが正直なところなのですが、ここにきて国会に提出されたIR実施法をじっくりとみて、これはマジヤバいだろう!
という超問題点に気が付いたので、今日はそれを書きます。
一体何故こんなものが急に入ってきたのか?
まったくもって突然のことで驚いています。
皆さんは「ジャンケット」という言葉をご存知ですか?
これは、簡単に言えばカジノに来るVIPのお世話係の様なもので、お部屋だとか、飛行機だとか様々な手配をしてくれるんですね。そしてそのお世話の一つに「お金を貸してくれる」という制度があるのです。
大王製紙の井川さんがハマったのも、このジャンケットがお金を貸してくれるようになったからとおっしゃっていますよね。TVの再現シーンなどでも盛んに取り上げられているので、ご存知の方も多いことと思います。
で、日本のカジノではこのジャンケットは禁止すると言われていたので、ある意味安心していたんですね。
例の「世界最高水準のカジノ規制」という謳い文句の中で、「ジャンケットは高リスク」と、はっきりと言ってましたし。
ところが、うかうかしている間に、閣議決定されたIR実施法を改めてみたら、なんと!「特定金融業務」などという項目が追加されているではないですか。4月27日の閣議決定以降急にあきらかにされたんです。
で、この「特定金融業務」の中味を簡単に言うとですね、
日本に住んでいない外国人と、カジノ事業者が管理する口座に預託金を積んだ人には、お金を無利子で貸し付けられるというものなんですね。
で、返済期間は2カ月以内で、それを超えて支払えなかったら、14.6%の遅延損害金をつけて、回収業者に回収させてよい!ってものなのです。しかもこの業務については、銀行法の規定は適用しないとのこと。
ひぇ~~~~~~!って感じじゃありませんか?
もう何でもありですよね、こうなってくると。
現行法とのすり合わせなんか関係ないというばかりの勢い。
しかもこの無利子で貸し付けるというのが、本日の内閣委員会の答弁を聞くと、「依存症対策だ!」って言うんだから、のけぞって驚いてしまいました。
これは最悪の規制です。
一体預託金に積まなくてはならない金額がいくらなのか?ここをまずは最低限でもハッキリして頂かなくてはなりません。10万円なのか1億円なのかで、ダメージを受ける層が全く違います。
例えば預託金10万円で、100万円貸すよか預託金50万円で、500万貸す、などということが行われたら、もう我々庶民ギャンブラーから富裕層まで一網打尽ですよね。
ドハマリします。それを2カ月以内に返せと言われても、返せない人が続出するでしょう。
では、預託金が1000万円ならどうなのか?
例えば、預託金1000万円で、2000万円、3000万円、5000万円といった金額を借りられるとして、それを数回繰り返したら、中小企業の社長などは借入開始から、1年で行き詰ってしまうことでしょう。
それなら預託金が1億、10億のレベルの人ならどうなのでしょう?
預託金が大きくなるということは、借りれる金額が増えることになります。
そして、それを2カ月という短期間で返さなくてはならなくなるのです。
大王製紙事件を考えて頂ければすぐに分かると思いますが、あの事件も井川さんがカジノへの借金5億円が支払えずに、子会社からの貸し付けに手をつけてしまったのが始まりです。そこから100億円超のお金を子会社から出させてしまったのです。
そもそも政府は「ギャンブル依存症に富裕層は罹患しない」と思っている節があります。
それは大きな誤解であり、あまりに現場に対して無知です。
富裕層も罹患するし、富裕層が罹患すると、動かせるお金が大きいのでなかなか回復しません。
その上、井川さんのように権力もあったりすると、周囲を有無を言わさずに巻き込むので、庶民よりずっと問題が大きくなります。
そして2カ月というタームは依存症者にとっては最悪の期間です。
これ「借りて翌日返す」のならまだマシなのです。でも2カ月もあったら、ギャンブラーはどんどん大きく張って、取り返そうと熱くなってしまいます。
この「特定金融業務」4月27日の閣議決定まで全然聞こえてこなかった話で、「入場料6000円」だとか「入場規制月10回」などという入口規制しか出てこなかったのに、なぜこんなものを最終的に突っ込んできたのか?
日本の富裕層の余剰資金を、国はみすみす外資のIR事業者に献上するつもりなのでしょうか?
こんなリスクが高いのにあやふやなままの条文がある限り、IR実施法をこのまま通してしまう訳にはいきません。これはおおげさな例え話しではなく、よくある安倍政権をなんでも批判しているイデオロギー闘争でもなく……現実に現場支援の最前線で格闘してきた私の実感から申し上げますが、これがまかり通ったら、カジノによる被害者の屍が死屍累々と積み重なることになるでしょう。
このまま通しては絶対にいけません。マスコミも是非この問題点を報道して頂きたいです。
編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年5月30日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。