2018年5月30日に開催された約1年半ぶりの党首討論において、「国家の基本政策」について議論するとしていた立憲民主党の枝野幸男代表が安倍首相(与党党首)に浴びせた質問は、「国家の基本政策」とは程遠いモリカケ問題のみでした。
立憲民主党・枝野幸男代表
1年以上にわたって限定なく、関係していたら辞めると言ったことを前提に議論してきたにも拘わらず、昭恵夫人が一定の関係をしていたことを伺わせる材料が出てきたら、急に金品や贈収賄のような限定を付したとすれば、一般にはそういったことを「卑怯な行為」と言う。まさか一国のリーダーが国会で堂々とそんな卑怯な振る舞いをすることはないと、そんなことがあったら社会の倫理観を麻痺させ国益を損なうと思うが、いかがか。
このような枝野代表の非生産的な【人格攻撃 ad hominem】に対して朝日新聞は次のように評価しています。
朝日新聞 [2018/05/31]
質問に正面から答えず、一方的に自説を述べる。論点をすり替え、時間を空費させる。1年半ぶりにようやく開かれた党首討論は、そんな「安倍論法」のおかげで、議論の体を成さない空しい45分となった。野党党首の多くが取り上げたのは、やはり森友・加計問題だった。首相は骨太な政策論議を期待すると語ったが、政治や行政に対する信頼を揺るがす問題は避けて通れない。
まさに、特定野党が政権に対して【人格攻撃】を行い、特定マスメディアがそれを容認してさらなる【人格攻撃】を行うという、反則レスラーと悪徳レフェリーがタッグを組んだような協働作業が行われています。もはや政権転覆を目的化している特定野党や特定マスメディアは、国民にとって必要な政策議論を一切行うことなしに、首相や政府関係者の人格を貶める活動に専念していると言えます。
特定野党と特定マスメディアがこのような傍若無人な振る舞いを堂々と行うのは、それを観ている国民の一部がこのような振る舞いに簡単に騙されて、一時的に内閣支持率を下げて内閣不支持率を上げることに貢献することを知っているからです。内閣支持率の低下は、国民に強い【バンドワゴン効果 bandwagon effect】を与えて【集団極性化 group polarization】を誘発し、ときに大幅な内閣支持率の低下を引き起こします。2015年の安保法案審議、2017年のモリカケ日報事案、2018年の決裁文書改竄事案は、まさにこの負のスパイラルの成功事例と言えます。
報道各社で異なる内閣支持率
結果的に政局に大きな影響を与える内閣支持率ですが、【世論調査 poll】を行う報道各社によってその値が大きく異なっています。一般に【誤差 error】には、計測方法が不確かであるために生じる【偶然誤差 random error】と、【偏向 bias】が生じる誤った計測方法を適用し続けることによって生じる【系統誤差 system error】があります。このうち、各社の内閣支持率の調査には明らかな【系統誤差】が含まれています。例えば、朝日新聞の内閣支持率はいつも低めに出ますし、読売新聞の内閣支持率はいつも高めに出ます。ここで、類似した【系統誤差】を有するグループ毎に安倍政権発足以来の内閣支持率の時間変動を見ていきたいと思います。
まず、内閣支持率が報道各社の平均に比べて低く出るメディアとして、朝日新聞(-5.1%)、日本テレビ(-3.4%)、毎日新聞(-3.3%)、ANN・報道ステーション(-3.2%)、時事通信(-3.0%)を挙げることができます(括弧内は平均の偏差)。この中でも朝日新聞は飛び抜けて低く出ると言えます(図中の水色の線:内閣支持率、赤色の線:内閣不支持率、灰色の細線群:他の報道各社の実測値)。
一方、内閣支持率が報道各社の平均に比べて高く出るメディアとして、日本経済新聞・テレビ東京(+3.4%)、読売新聞(+4.3%)、JNN(+6.6%)を挙げることができます。
そして、内閣支持率が報道各社の平均に近いメディアとして、NHK(-0,8%)、FNN・産経新聞(+1.5%)、共同通信(+2.2%)を挙げることができます。
図からもわかるように、日本の二大紙である朝日新聞と読売新聞の発表する内閣支持率には概ね10%の差がありますが、この差が国民を大きくミスリードする可能性があります。例えば、読売新聞が内閣支持率を発表した翌週に朝日新聞が内閣支持率を発表すると(最近では2017年12月~2018年2月)、真の内閣支持率にほとんど変化がなくても見かけ上は10%下落しているように見えます(2017年12月:読売53%→朝日41%、2018年1月:読売54%→朝日45%)。また、内閣支持率が実際に上がっても、見かけ上は下落したように見えることもあるわけです(2018年2月:読売48%→朝日42%)。
参考のために、安倍政権発足以来の内閣支持率と内閣不支持率の平均値を表に示します。
この表には、私が定義した【政権親和度】という指標を示しています。この値は、支持率/不支持率比の偏差をその標準偏差で正規化した無次元数(標準正規確率変量)であり、マイナスの低い値になるほど、政権運営に都合の悪い内閣支持率・不支持率を算出していると言え、プラスの高い値になるほど、政権運営に都合のよい内閣支持率・不支持率を算出していると言えます。
この指標で言えば、反政権のメディアは、日本テレビ、朝日新聞、JNN(TBS)、毎日新聞、ANN(テレビ朝日)・報道ステーションであり、親政権のメディアは、日本経済新聞・テレビ東京、読売新聞ということになります。このような図式は、国民が考えているメディアの論調の印象とよく整合するものです。ここで、メディアの論調が、客観的な統計値でなければならない内閣支持率の値とよく整合しているということは、マスメディアに極めて危険な【偏向】が蔓延していることの証左です。報道各社は自らの論調と整合的な内閣支持率が得られるように調査手法あるいはデータ処理手法を恣意的に選択している可能性があります。ちなみに、FNN・産経新聞の値は各社平均とほぼ一致しています。FNN・産経新聞は保守的な論調と整合的な統計値を恣意的に得るようなことはしていないと言えます。
なぜ報道各社で内閣支持率が異なるのか
報道各社の世論調査において、「内閣を支持するか支持しないか」の質問は、全ての質問の最初に行われることになっています。他の質問をしていない「まっさら」な状態で内閣支持率を調査しているにも拘わらず、なぜマスメディア各社で内閣支持率に【系統誤差】が生じるのでしょうか。
[1] 国民(母集団)を代表する被験者(標本集団)を抽出できていない
世論調査の大前提となることは、質問の対象者である【被験者 participant】の集合体である【標本集団 sampled population】が【国民 nation】という【母集団 target population】を代表していることです。メインストリームメディアの世論調査は、時事通信を除き、無作為に固定電話あるいは携帯電話に電話をかけて質問をするRDD方式を採用しています。一見公平に思えるこの方式には大きな落とし穴があります。それは【被験者】の全員から回答が得られないという点です。
当然のことながら、回答を承諾する【被験者】と承諾しない【被験者】には、【パーソナリティ personality】【性格 character】【気質 temperament】に一定の差異があると推察されます。例えば、勤務中であったり勤務を離れて休暇を楽しんでいる「忙しい勤労者」にとって、時間を阻害される「厄介な電話」は明らかに招かれざるものと言えます。また、現社会に対する通常の認識を持ち合わせている人にとっては、どこの誰がかけてきているかもわからない「怪しい電話」に個人の見解を開示するのは大きなギャンブルでもあります。結果として、どの世代であっても、時間に余裕のある寛容で騙されやすい人物が被験者として選ばれる確率が高くなると言えます。
報道各社の回答率は50%前後が多いと言えますが、例えば日本テレビのように回答率が30%台と極端に低い場合が存在します。どのような切り口で承諾を求めているのかわかりませんが、日本テレビの世論調査には、選りすぐりの寛容で騙されやすい人物が回答している可能性があります。勿論、寛容で騙されやすい人物は、情報を支配しているマスメディアの論調に従いやすいと推察されます。
また、朝日新聞のように、被験者に社名を名乗って世論調査への協力を要請することがあります。これにも大きな問題があります。朝日新聞には一部の熱烈なファンと多くのアンチがいますが、アンチは相手が朝日新聞であることを知った段階で協力を拒否して電話を切る可能性があり、結果として朝日新聞に好意的な被験者が多くなる可能性が高くなります(論調に反対するメディアから世論調査の依頼があった場合には承諾するのが合理的判断と言えます)。また、朝日新聞に特別な評価を持っていなくても、朝日新聞の調査であることを知った被験者は、朝日新聞の論調に合わせた回答をする確率が高くなります。人間には、【ホーソン効果 Hawthorne effect / observer effect】と呼ばれる「注目されると注目する側の期待に応える」傾向があるからです。
[2] 被験者の回答は質問者に影響される
同じことを問う場合にも、質問者が生身のインタヴュアーであるか、自動メッセージであるかによって【被験者】が影響を受けることになります。米メディアの[ポリティコ]によれば「インタヴュアーが質問する電話世論調査」と比較して匿名性が高い「自動メッセージが質問する電話世論調査」や「インターネット世論調査」では大統領令に対するトランプ大統領の支持率が高くなるとのことです。これはまさに「隠れトランプ現象」と通じるものであり、メディアが【ポリティカル・コレクトネス political correctness】に反すると絶え間なく批判している事案について、人前で賛成することを躊躇したものであると言えます。このように、匿名性が高くなるとトランプ支持が強まる現象は「注目されると注目する側の期待に応える」【ホーソン効果 Hawthorne effect】の裏返しであると言えます。朝日新聞のようなインタビュアー方式の場合、被験者はマスメディアの論調に沿うような回答を返す傾向が大きくなると考えられます。
また、時事通信のような対面型調査の場合には、むしろ一時的に個人が完全に特定されるため、個人の見解を示し難い傾向にあるものと考えられます。実際、時事通信の世論調査では内閣支持率も内閣不支持率も低い傾向にあると言えます。なお、沖縄の名護市長選挙の出口調査では、メディアが圧倒的に支持する稲嶺進氏とメディアから批判を受けていた渡具知武豊氏が横一線でしたが、結果は渡具知氏の圧勝でした。メディアが【沈黙の螺旋 die Theorie der Schweigespirale】を作り、国民の言論の自由を奪っていることを容易に認識できる事例であったと言えます。
[3] 被験者は回答の選択肢に影響を受ける
JNN世論調査は、内閣支持率も内閣不支持率も他社より大きくなっています。これは、質問において「内閣を支持する」「支持しない」の二者択一のカテゴリー区分ではなく、「非常に支持できる」「ある程度支持できる」「あまり支持できない」「まったく支持できない」という4つの選択肢を提示し、これらを支持・不支持に振り分けることで最終的な支持率を算出しているためです。「どちらかと言えば」や「あまり」というエクスキューズを付加すると人間は選択をしやすくなります。
[4] データの評価方法が異なる
内閣支持率は世代によって大きく異なることが知られていますが、調査を承諾する被検者の構成比も実際の人工構成比と大きく異なることが指摘されています。いくつかのメディアでは、補正係数をかけて実際の人工構成比に合致させるようデータ処理していますが、すべてのメディアでこの処理が行われているかは不明です。そもそも均質な母集団を仮定して精度を決めている統計調査において、【母集団】内に特性が大きく異なる【部分集団 subpopulation】が存在してその回答率に大きな差異があることは、精度を考える上で統計学的に問題があると言えます。
以上のように、内閣支持率というものが、国民が選択した政治の政局に大きな影響を与えるにも拘わらず、その詳細な調査手法及びデータ処理手法が明確に示されることはありません。報道各社でこれだけ調査結果に差異があることを考慮すれば、報道各社は調査手法及びデータ処理手法の詳細を自ら積極的に開示する必要があると考えます。匿名データの開示は情報源秘匿の原則とは無関係です。消費者保護の観点から、消費者庁や国民生活センターが開示を指導する必要もあると考えます。詳細が不明な情報によって主権者である国民がミスリードされるのは、民主主義に反すると言えます。
内閣支持率の正しい見方
内閣支持率を分析する上で最も重要な点は、その時点において、内閣支持率が下落しているのか、上昇しているのか、あるいは変化がないのかを見極めることです。【偏向】を持つ各社データを基にそのような分析ができるかと言えば、数学的(時系列解析)な観点から、できないわけではありません。以下に簡易な方法を説明したいと思います。
まず、次のような手順で、週間隔のデータで構成される各社平均の内閣支持率の時系列データを作成します(内閣不支持率も同様の方法で作成できます)。
(1) 報道各社の生データから平均支持率との偏差を引いて、データの偏向を除去する。例えば、朝日新聞の場合は偏差が-5,1なので支持率に5.1を加える。また、読売新聞の場合には偏差が+4.3なので支持率から4.3を引く。
(2) 全てのデータを各週に割り当てる。通常、世論調査は週末に行われる。
(3) 一つの週に複数のデータが存在する場合には、それらを平均して一つの値にする。
(4) データが欠如する週については前後のデータを平均(線形補間)して値を得る。
各社平均の時系列データを作成したら、次に各時点から13週過去までのデータの標準偏差を算出します。これは【移動標準偏差 moving standard deviation】と呼ばれます。ちなみに、13週というのは、3ヶ月(四半年)にあたる長さであり、株価を分析する際などに、52週(1年)、26週(半年)などと同じようによく利用される標準的な値です。これをプロットすると下図のようになります。
図を見るとわかるように、【移動標準偏差】のピークと「内閣支持率の底値」が殆どの場合に一致しています。これは過去に実施した[予備検討]で発見したものです。図中には代表的な政局の局面をプロットしてありますが、ピークとの関係が不明確なのは2016年の参院選・都知事選だけであり、その他は内閣支持率の大局的な下げ止まりのポイントとよく一致しています。つまり、各社平均内閣支持率の時系列データに対して【移動標準偏差】を算出すれば、非常にクリアに支持率の下げ止まりを確認することができると言えます。例えば、直近で言えば、決裁文書改竄事案で下落した内閣支持率については、既に【移動標準偏差】が明確なピークを形成していることから、大局的にはリバウンドしていると評価することができます。
なお、このグラフを見る限り、内閣支持率が低下する局面は、安保法制やモリカケ等の各種政治案件の他に選挙の際にも発生すると言えます。日本にしては長期政権となった安倍政権ですが、これまでの歩みはけっして平坦ではなく、度重なる下げ局面にしっかりと打ち勝ってきていることがよくわかります。
エピローグ
普遍的な値であるはずの内閣支持率が、朝日新聞と読売新聞の発表で概ね10%も異なるというのは大きな問題ですが、各メディアの論調と内閣支持率/不支持率の比がよく対応するということはさらに大きな問題であると言えます。
「反政権メディアが発表する内閣支持率は低く、親政権メディアが発表する内閣支持率は高い」という客観的な事実は、国民をバカにしたものであり、重大な報道倫理違反です。報道各社は、自らを社会の公器と宣言するのであれば、内閣支持率の調査手法及びデータ処理手法の詳細を自ら積極的に開示し、自社の内閣支持率がなぜ偏っているのかを国民に説明する必要があると考えます。
国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来します。報道各社が自らの論調に整合的な内閣支持率・内閣不支持率を発表して国民を心理操作している現状はけっして許容できるものではありません。
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2018年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。