6月12日に米朝首脳会談が予定通りに実施された。まさに歴史的な日となるものと思われる。12日の東京市場ではドル円は110円台に上昇し、日経平均株価は一時23000円台を回復した。
米朝首脳会談が実現されたことにより、朝鮮半島の非核化、さらには休戦状態にある朝鮮戦争の終結が実現する可能性が出てきた。これは北朝鮮を巡る地政学的リスクの後退とも捉えることができることで、いわゆる金融市場でのリスク回避の巻き戻しの動きが出ていたとしてもおかしくはない。
ただし、11日にすでに欧米市場ではリスク回避の巻き戻しの動きが起きていた。これは米朝首脳会談に先回りして動いたというよりも、イタリアの政治情勢の行方に焦点が当てられていたといえそうである。
それを端的に示していたのが、欧州の国債の動きであった。欧州の債券市場では、イタリアの国債が買い戻され、イタリアの10年債利回りは2.82%と先週末の3.11%から大きく低下していた。周辺国の国債も連れ高となったが、中核国の国債は総じて売られ、ドイツの10年債利回りは0.49%と先週末の0.44%から上昇し、フランスやオランダの国債も売られていた。昨日の欧州株式市場は、イタリア株など主体に買われて反発しており、この動きはまさにリスク回避の巻き戻しといえる。
外為市場でもリスク回避の巻き戻しの動きから、円がドルやユーロに対して売られ、ドル円が110円台を回復し、ユーロ円は12日の東京時間に130円台を一時回復していた。
この動きのきっかけとなったのは、イタリアのトリア経済・財務相が9日掲載の現地紙のインタビューで、同国が単一通貨ユーロを離脱する可能性を明確に否定したことによるものであった(日経新聞電子版の記事より)。
イタリアでは5月にポピュリズム政党の「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」が連立政権樹立に向けた政策で合意したものの、2党が選んだユーロ懐疑派の経済・財務相候補の起用をマッタレッラ大統領が拒否し、ポピュリスト2党の指導者は組閣を断念。五つ星のディマイオ党首はムーディーズの格下げが組閣を妨害したと批判し、大統領を弾劾する提案を検討していると指摘している。「同盟」のサルビーニ書記長は謀略の存在をほのめかし、再選挙を呼び掛けた。これがイタリア・ショックを引き起こし、欧州主体にリスク回避の動きを強めた。
その後、イタリアの五つ星運動は政権樹立の争点となっていた経済相の人選でも妥協点を探り、ユーロ懐疑派のサボナ氏擁立を断念する構えを示し、あらためて新政権樹立を模索する動きを示した。五つ星運動と同盟は連立政権樹立で合意し、経済・財務相のポストに経済学教授のジョバンニ・トリア氏を起用することで、ジュセッペ・コンテ氏が首相に再指名された。これによりイタリア・リスクはいったん後退した。しかし、新政権がユーロ離脱に動く懸念はその後も存在した。
それを今回、焦点ともなっていたイタリアの経済・財務相が明確に否定したことで、市場はひとまず安堵した格好となったのである。
そして、今回の米朝首脳会談の行方を市場はどのように判断するのかであるが。それは今後の金融市場の動向に影響を与えるものとみられる。円高や株安となるリスクオフというよりも、素直に円安や株高要因となるリスクオンの動きを強めるのではないかと予想される。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。