郊外住宅市街地の再生が「ノスタルジー」ではない理由

1980年代後半から1990年前後にかけて、東京を中心とした都市の不動産は高騰を続け、一般のサラリーマンは「家を買う」ことがとても難しくなっていた。

その結果、宅地開発の波はどんどん郊外へと拡がっていき、通勤に1時間半~2時間以上かかるエリアの家を購入するサラリーマンが増えていった。住宅購入希望者の中にはさらに低廉で十分な住空間を確保するため「新幹線通勤」を厭わない強者も出始めた。

上記は所謂「バブル期の住宅事情」だが、都市の住宅価格高騰により郊外で家を購入した人たちは、通勤等で時間を割かれる一方、家が郊外であるからこそのメリットも享受できていたと思う。

東京都総務局統計部によると、2018年5月時点での区部(23区)の人口は約953万人であり、2017年の同月約944万人から約10万人程度増加している。この人口増加はここ数年ほぼ同程度で続いており、少なくても東京の区部においては既存住宅・新築住宅、また賃貸・分譲の別は問わず、毎年約10万人の住宅が必要とされることを表している。東京都の新設住宅着工は区部全体で117,616戸(前年比 2.4%増 2年連続の増加)であることを考えれば、区部の住宅需給バランスは悪くない。

筆者は都市への人口集中を否定しない。都市に人口が集まることでその生産性は高まり、さらなるインフラ投資が行われ、またその環境が様々なイノベーションを起こす起点にもなっていくだろう。

しかし過去、郊外での暮らしが人々へ与えたものも決して小さくなかったのではないだろうか。これは単なるノスタルジーの類ではない。郊外での暮らしは自然を身近に感じられる住環境だったり、地域共生によるコミュニティ形成、子育て環境の充実など、「郊外住宅市街地」だからこそ得られたものも多かったのだ。

いま国は「郊外住宅市街地の再生の実現」に取り組もうとしている。これは「成熟社会に対応した郊外住宅市街地の再生技術の開発」事業として平成30年度から平成34年度まで行われる予定だ。

※参考 国土交通省『成熟社会に対応した郊外住宅市街地の再生技術の開発』

そのなかで国は、この事業の目的を次のように位置付けている。

高度経済成長期以降、大量の住宅団地が計画的に整備され、郊外住宅市街地を形成している。これらは現在、経年に伴う住宅・住宅地の老朽化、純化された土地利用と生活ニーズの乖離、空き家の増加、公共交通機関の衰退等のオールドタウン化が進行しているが、一方で、計画開発による公共施設整備率の高い、都市の貴重な資産である。本事業では、郊外住宅市街地の再生を実現する上での技術的課題を解決するための技術研究開発を行い、郊外住宅市街地の再生の実現を推進することを目的とする。
(出所 平成29年度 行政事業レビューシート 国土交通省)

ここで注目すべきは、郊外住宅市街地を「都市の貴重な資産」であると位置づけたところにある。都市近郊の郊外住宅市街地は生活インフラがすべて整った「街機能」を有している。ストック型社会への移行が必要とされる日本社会において、この都市近郊の郊外住宅市街地を活用できなければ、さらに人口減少が著しい地方の創生など出来るはずがない。

郊外住宅市街地も地方も、住居の提供とその再整備だけでは人は集まらない。そこに職(仕事)が伴わなければ街の磁力(魅力)にはつながらないのだ。

既述の政策が郊外住宅市街地を過去の「職住分離型のベッドタウン」としての再生というプロセスを辿らせるものではなく、「職住共存型の都市」の創生に繋げていくものだとすれば、それこそが地方創生のロールモデルになる可能性さえ秘めているのである。