マインドフルネスは、マサチューセッツ大学医学大学院(英語版)教授の、ジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn)によって確立された理論になる。仏教がベースとなり心理学をミックスさせることで、ストレスに対応する手段としてマインドフルネスを提唱した。ビジネス、瞑想、スピリチュアル、など活用領域もひろい。
今回は、『1日10秒マインドフルネス』(大和書房)を紹介したい。著者は精神科医、作家として活動する、藤井英雄さん。本書は40年間瞑想を続けた精神科医が教える、誰でも理解できていつでも実践できるエクササイズになる。藤井さんの主な著書としては、『ビジネスマンのための「平常心」と「不動心」の鍛え方』(同文館出版)がある。
人生の質を下げるネガティブ
マインドフルネスとは現実にリアルタイムかつ客観的に気づいていることをさす。この現実世界に気づいて生きることがマインドフルネスである。
「マインドフルネスという言葉の反対はマインドレスネスです。紛らわしいので、私はマインドレスネス=自動操縦モードと表現しています。心が『今、ここ』を離れてしまい頭の中の非現実を漂うとき、ネガティブな感情に陥ってしまう危険性があります。特に、忙しいときやプレッシャーに負けそうなとき、ストレスを感じているときには、心は簡単にネガティブ思考にはしってしまいます。」(藤井さん)
「そんなとき、マインドフルネスな状態になれたら、つまり自動操縦モードの心を『今、ここ』に集中させることができたなら、ネガティブ感情も癒されます。その結果、『今、ここ』に必要な仕事に効果的に集中することができるのです。」(同)
脳をコンピューターにたとえてみよう。記憶された膨大な過去のデータはハードディスクに蓄えられている。そして現実に起こるすべてのことに対応していく力がメモリであり、メモリ上で動いているソフトやアプリと表現できる。
「メモリとはパソコンで行う作業を一時的に記憶する部品のことです。作業机業をする際、机が大きいほどたくさんのモノが載せられて使いやすいですよね。作業時に必要な容量といえどんなに優れたPCでもメモリの容量以上の処理をさせると動きが悪くなります。脳も同時進行でいろいろなことを処理すると疲れてしまうのです。」(藤井さん)
「特にメモリをくうのがネガティブ思考ですから、いち早くマインドフルネスの状態となって、自分を客観視し手放しておきましょう。」(同)
マインドフルネスの瞑想は、Googleをはじめ、多くのグローバル企業で導入されて日本でも関心が高まっている。マインドフルネスを、うまく実行できれば、仕事のパフォーマンスは向上するだろう。しかし、内面へのアプローチは影響が大きいため、事前にメリットとデメリットについて理解することをお勧めしたい。
マインドフルネスの好例
マインドフルネスを説明すると、どうしても抽象的になりやすいので、わかりやすい事例を紹介したい。これは、有名な話になるが、箱根駅伝で青学が躍進した秘密は「マインドフルネス」にあるといわれている。
箱根駅伝で3連覇の快挙を遂げた際、原監督は、調子の波が激しく、よいときはものすごい力を発揮するタイプの選手(秋山選手)を往路の3区に起用した。駅伝では、監督が乗った車が並走して声をかけることができる。どんな言葉をかけるかが選手の走るモチベーションを左右するのでモチベーションを上げる声かけが必要になる。
原監督が選手に向かって、「Perfumeのリズムでいくぞ!Go Go」と声をかけた。選手の顔がニヤッと崩れたあと、腕の振りが明らかに変化し、先頭を走っていた神奈川大学の選手を抜き去り、2年連続の区間賞にも輝いた(この模様はアーカイブなどでも確認できる)。マインドフルネスの効果で精神的な能力を引き出した好例といえよう。
多くの企業で取り入れられているマインドフルネス。「イライラしても冷静に対処できた」「動揺してもやるべきことに集中できた」「身体や心の疲労を感じにくくなった」「前向きに取り組めるようになった」「不安や怒りの感情が消えた」。いまのストレス社会において、マインドフルネスに注目が集まることは「自明の理」なのかも知れない。
尾藤克之
コラムニスト