4月に米国債保有高を大幅縮小したのは、中国ではなくアノ国

4月対米証券投資、米6月NAHB市場指数をおさらいしていきます。

4月対米証券投資は、1,387億ドルの買い越しとなった。前月の436億ドルの売り越し(385億ドルの売り越しから修正)から転じ、流入となる。民間が1,635億ドル買い越したためで、海外を含む中銀などは248億ドル売り越した。一方で、海外勢は47.8億ドルの売り越し。前月の49.2億ドル(修正値)と合わせ、2ヵ月連続で流出している。

期間中、3月にトランプ政権が鉄鋼・アルミ関税を発動させ対中知財制裁関税を提示するなか、米中貿易摩擦の懸念が燻った。米国によるシリア空爆で地政学的リスクの高まりが意識された一方、原油高を背景としたインフレ加速や短期証券の増発をにらみ米10年債利回りは2014年1月以来の3%を突破。米株は決算をにらみ方向感に乏しい展開が続いた。

国別での米国債保有高トップ5動向は、前月に続き以下の通り。

1位 中国 1兆1,181億ドル、3ヵ月ぶりに売り越し
2位 日本 1兆312億ドルと2011年10月以来の低水準、3ヵ月連続で売り越し
3位 アイルランド 3,004億ドルと2017年5月以来の低水準、売り越しに反転
4位 ブラジル 2,941億ドルと過去最高を更新、買い越し基調を継続
5位 英国 2,627億ドル、3ヵ月ぶりに売り越し

トップ5の米国債保有高の推移。

(作成:My Big Apple NY)

――トランプ政権による鉄鋼・アルミ関税措置の発動、301条を根拠とした中国向け輸入品への関税賦課検討の発表はそれぞれ3月を経て、中国は米国債保有高を3ヵ月ぶりに売り越していました。また、3位を維持するとはいえ、アイルランドが前月から大幅に売り越しに転じた点も注目。アイルランドには節税目的でアイルランドに拠点を置く米企業が数多く存在し、これらの企業は流動性の高い米短期国債でドル資産を保有してきました。例えばアップルやマイクロソフトは過去5年間でそれぞれ米国債を800億ドル積み増したといい、こうした動きがアイルランドの米国債保有高を押し上げたと考えられます。こうした海外留保益がレパトリ減税を通じ米国に還流し始めているなら、米短期国債が売り越しとなってもおかしくありません。

中国やアイルランドより、売り越しが際立った国がございます。それがロシア。トランプ政権が英仏と実施したシリアへの巡航ミサイル攻撃を実施する以前の3月には、英国で発生したロシア人の元二重スパイ暗殺未遂事件もあり、米国、欧州連合(EU)、カナダなどロシア外交官の一斉追放を決定。米国は60人のロシア人外交官を追放し、シアトルの領事館を閉鎖に追い込みました。その報復措置の一環なのか、ロシアは4月に474億ドルの売り越しを断行。その結果、米国債保有高は487億ドルと前月の961億ドルからほぼ半減し、2008年3月以来の水準に沈みました。米国債保有高ランキングでは3月の17位から、23位に転落しています。


(作成:My Big Apple NY)

ロシアの米国債保有高は日中ほど大きくないだけにインパクトは限定的とみられますが、足元で他国も売り越し優勢なだけに、無視できません。かくいう日本の米国債保有高も4ヵ月連続で売り越した結果、1.03兆ドルと2011年10月以来の低水準でしたし・・。

▽米6月NAHB住宅市場指数は年初来で最低に並ぶ、木材価格の高騰が重石

米6月NAHB住宅市場指数は68となり、市場予想の並びに前月の70を下回った。4月に続き、年初来で最低となる。とはいえ、過去の水準からみると高止まりを維持、1999年7月以来の高水準を達成した1月の74に近い。経済活動と労働市場が力強さを維持するものの、木材価格の高騰が住宅建設業者のセンチメントを小幅ながら低下させた。地域別では、北東部が上昇した程度で、中西部と西部は横ばい。南部は2017年11月以来の水準へ低下した。

内訳をみると、一戸建て現況指数は75と前月の76から低下一戸建て見通し指数も前月の76を1ポイント下回り75となる。客足の動向を表す見込み客指数は3ヵ月連続で51を経て50へ低下、2017年11月以来の低水準となった。

NAHB住宅市場指数、5ヵ月ぶりの低水準から改善。


(作成:My Big Apple NYが作成)

発表元である全米ホームビルダー協会(NAHB)のロバート・ディエス主席エコノミストは、結果に対し「成長の改善や雇用の拡大継続、堅調な住宅需要が一戸建て建設の需要を加速させるだろう」と前向きな予想を示す。しかし「建築業者のセンチメントは、カナダ木材その他輸入品に賦課された関税が新築住宅市場の値頃感を抑制していると懸念している」と指摘。木材価格などの高騰は「2017年1月と比較し住宅価格を9,000ドル押し上げた」とあって、楽観的になれないようだ。

(カバー写真:Chris/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年6月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。