米商務省が29日に発表した5月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比で2.3%の上昇となり、2012年3月以来6年2か月ぶりの大幅な伸びとなった。
そして米国の中央銀行であるFRBが物価の目安としている、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年同月2.0%の上昇となり、6年ぶりにFRBの物価目標である2%を達成した。
2012年1月25日のFOMCの終了後に発表された「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。
米商務省が発表している個人所得、個人消費支出(PCE)、PCEデフレーターは米国の経済指標の中にあって、注目されるもののひとつである。
これらは米国の個人の所得と消費について調査した指標であるが、このうち個人所得とは、社会保険料を控除し実際に個人が受け取った所得となる。個人消費支出とは1か月間に実際に米国の個人が消費支出した金額について集計したものである。そして、名目個人消費支出(名目PCE)を実質個人消費支出(実質PCE)で割ったものが、個人消費支出(PCE)物価指数もしくはPCEデフレーターと呼ばれる。
2012年1月にFRBが物価目標目安としてコアPCEデフレーターの2%という数字を置いた後、コアPCEデフレーターは同年3月に前年比2.0%と目標値をつけたが、その後は2%を下回る月が続き、2013年3月に前年比1.1%となった。そしてやっとここにきてFRBの物価の目安が達成されたということになる。
目安とか目標という表現が混在しているが、これは日銀が掲げた物価目標とは異なり、おおよその目安といったもので、その分柔軟性があり、このため目標は達成していなくても、FRBは正常化を進めてきたと言えるのである。
FRBは2014年にテーパリングを終了させて、2015年12月から利上げを開始した。FRBの金融政策の推移とコアPCEデフレーターの推移をみてもかならずしもリンクしていない。FRBが正常化路線を進めるほどに、世界的なリスクが後退し、景気は拡大、それによって物価も回復してきたとみた方が良いのではかろうか。
これはFRBの金融政策の効果がない、と言っているわけではない。リーマン・ショックや欧州の信用リスクに対する金融市場のリスクを後退させるためには、FRBの大胆な緩和策がそれなりの効果があったことも確かである。
ただし、2%という絶対的な物価目標を政府の意向により掲げさせられ、世界的なリスク後退局面期にも関わらず、異次元緩和を実施した中央銀行があったように思うが、こちらはいったい何をしたかったのであろうか。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。