電気自動車の聖地はカンボジアだった

酒井 直樹

みなさんは、電気自動車の利用が一番発展する国はどこだとお思いだろうか?シリコンバレーか?欧州か?はたまた日本か?あるいは中国か?

意外だと思うかもしれないが、私はカンボジアでまず最初に花が咲くと見ている。そう見ているのは私だけではない。多くの欧米勢がそう見ている。百聞は一見にしかず。先月僕はカンボジアに飛んで実際にこの目でその状況をチェックしてきた。本当にいいマーケットだ。もう多くのプレーヤーが密やかに進出している。

カンボジアにはアンコールワットという世界遺産がある。厳密には、アンコールワットは、アンコール遺跡群の一部で、現在のカンボジア王国の淵源となったクメール王朝の首都の跡である。

この地には、9世紀頃から数々の王建設が開始された。この遺跡に特に大きく関わったとされるのはスーリヤヴァルマン2世(1113-1145年)とジャヤーヴァルマン7世(1181-1218年)といわれる。スーリヤヴァルマン2世は特にアンコール・ワットの建設を行い、その死後30年ほど後に王に就いたとされるジャヤーヴァルマン7世はアンコール・トムの大部分を築いたとされる。

僕は、基本的には観光地や遺跡に興味がない。インドには7年くらいほぼ住んでいて、デリーとムンバイの間を行ったりきたりしてきたが、一度も世界遺産であるタージマハールに行ったことがない。東京人が東京タワーに上らないのと一緒で、まあだいたい想像がつく。アートの才覚がないのかもしれない。

ところがこのアンコール遺跡群には圧倒された。魂を揺さぶられ、人間の生き死にについて考えることにまで深く深層心理に潜れた。こんな経験は生まれて始めてだ。京都では三十三間堂がお気に入りで1000体の仏像を見ると信心深くない僕でも心が安らかになるのだが、それ以上の深みがある。

で、このアンコール遺跡というのは、だいたい20KM四方くらいの森の中に遺跡がバラバラに点在している。アンコール遺跡はカンボジア政府のアプサラ機構(アンコール地域遺跡保護管理機構)により、発掘・修復から観光開発(遺産の商品化)まで一手に管理している。まあ国連というかユネスコが管理しているので、とにかく道が綺麗。空港がそれほど大きくないのだが年間300万人の観光客が押し寄せる。欧米人が比較的多いのも特徴だ。

以下の地図は、北朝鮮の寄贈したパビリオンにあってわかりやすい。いくつかの国がホストをしてパビリオンがあるのだが北朝鮮館が一番いけているというのも味わい深い。

で、城下町シェムリアップから遺跡まで20km弱あって、さらに各遺跡が点在するのにだいたい一周して40-60kmある。だから歩いて行くのは無理。貸し自転車もあるがよほどの猛者でない限りそれは体をひどく消耗するから現実ではない。

そこで東南アジアにありがちなバイク(そのほとんどはホンダ製だ)に客車をつけたツクツクで走り回ることになる。ところがだ、アンコール遺跡は特にガラスで守られているわけでなく丸出しになっているので、冗談ではなく、煤煙がその遺跡を劣化させる。そういう研究結果がある。

だから、ゼロエミッションの電気自動車を貸し出して今流行りの電気自動車シェアを始めようという流れがでてもおかしくない。で、4−5年前から、Blue Solutionというフランスの会社が自国で電気自動車のシェアで成功を収めて3年ほど前にシェムリアップで事業を始めた。

僕はそのガレージに入れてもらった。下がその写真。

この会社、かなり攻めていて、団体客用のバスまで作った。この会社の業容については定かではないが、それほどいけている感じはしまい。観光客がシェムリアップにきて、遺跡回るのに四輪車を使うかというとあまり使わないし、UXもよくない。

で、この会社の従業員だった、フランス人が自分で街中で中国製の電動二輪バイクを購入して、電動二輪バイクシェア事業を始めた。これが当たりに当たっている。そこの経営者のフランス人とじっくり話した。彼は「すごく儲かっているぜ」とひとしきり自慢をした。

ビジネスモデルは一日レンタルして10ドル。もちろん燃料費の電気代込みだ。激安だ。

このような普通のコンセントで充電していく。これが欧米のバックパッカーに大いに受けている。四輪と違って風を感じられる。自然と一体になっている。すると仏様の笑顔がにゅっとでてくる。堪らない。きっと、東京都心でマリオカートに興じている人は同じ気持ちなんだろう。異国の地でツーリング。たまらない。

ところが、一つ大きな懸念がある。保険が効かない。保険は用意していない。保険好きの日本人は、海外旅行損害保険に入るが、これで事故ったらその範囲外だ。コストを徹底的に削り落として薄利多売なので、そういうモデルになる。

あと、中国製なのですぐ壊れる。私の乗ったバイクは右の前輪ブレーキが壊れていた。ダメだろうそれは。でこれに乗ってアンコールを旅したのだが、バイクは心許ないが、とっても気持ちがいい。軽井沢の別荘地帯を貸し自転車でサイクリングしているようなものだけど、それよりも爽快さが格段にいい。まず道路が綺麗。それに交通量が少ない。

電動バイクは、普段使いはしないだろう。でも特別な旅行時、ハレの時には多少財布の紐が緩む。だから、面的に広くて観光地というのは電動バイクの普及に向けたインベーター的な役割を果たす。これが聖地たる所以だ。

当然、わが日本勢も黙っていない。現地のいけてるアジアゲートウェイという会社が環境省の補助金を使って数年前に電動ツクツクを始めた。その写真が下だ。

というわけで、日本で電気自動車というと大型四輪のイメージがあるが、むしろ携帯電話が途上で爆発的に伸びたように、小型モビリティがまずカンボジアのような金払いのいい観光客を抱えるいくつかの特異点で同時多発的に発生し、それが全途上国に染み出し、いずれは日本市場に帰ってくる日も近いかもしれない。

あと追記するとカンボジアはご飯が美味しい。タイほど辛くなくて出汁が効いている。中華料理とタイ料理のハイブリッドだ。今年の夏休みは是非アンコール遺跡でエコドライブを楽しんでください。

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