日本で年収1,000万円なら、御の字でしょう。しかし米国のこの地域であれば、高所得者に遠く及びません。
ゴールデンゲート・ブリッジ北側一帯に広がるカリフォルニア州マリン郡が、まさにその一例にあたります。住宅都市開発省(HUD)は今年、同郡での「低所得者層」の定義を4人家族の世帯年収で「11.74万ドル=約1,300万円」以下に設定、2017年から11.4%引き上げました。低所得者層のラインとしては、全米で最高となるのは、言うまでもなく。つまり、マリン郡で世帯年収11.74万ドル以下ならば、公営住宅やアフォーダブル・ハウジング(家賃負担の一部が補助金で賄われる住宅)、連邦政府の住宅補助手当の得る機会に恵まれることになります。
「低所得者層」の基準は通常、過去数年間の世帯年収の中央値から算出され、中央値の80%以下に設定されます。しかしマリン郡の4人家族世帯年収の中央値は11.84万ドルと、低所得者ラインと僅か1,000ドルしか変わらないんですね。それでも11.74万ドルを低所得者層の基準に設定しているのは、中央値に近い世帯年収でもゆとりのある生活を営めないためです。年収1,000万円超えのこんな高賃金職を得ても低所得者に割り振られるなんて、夢がなさ過ぎです・・。
低所得者層はさらに階層が分けられ「非常に低い所得者層」は4人家族の世帯年収で7.33万ドル以下、「極めて低い所得層」は4.40万ドル以下とに設定されています。本来であれば、それぞれの基準は中央値の50%以下、30%以下ですが、こちらも住宅価格の高騰と低所得者層のラインと合わせ設定が緩和されました。2016年の全米の年収中央値が5.90万ドルであることを踏まえれば、いかにマリン郡の低所得者層ラインが高いかが伺えますね。
しかし、いくら公営住宅やアフォーダブル・ハウジングの入居の条件を満たしていても、問題は入居先が存在するか否かです。地元紙は、カリフォルニア州における「非常に低い所得者層」向けのアフォーダブル・ハウジングだけで100万軒不足しているとか。11.74万ドル以下の年収でアフォーダブル・ハウジングの入居などの資格を得たとしても、確約されていないというわけです。
年収10万ドル超えでも「低所得者層」に位置づけられるマリン郡の住宅事情をみてみましょう。住宅情報会社ジローによれば、同郡の住宅価格・中央値は5月に前年比9.8%上昇の112.2万ドルでした。そう、中央値で億単位というわけです。家賃負担も年々重くなり、全米低所得住宅連合(NLIHC)の調査では、マリン郡で2LDK住宅の家賃支払いに必要な時給は2017年に前年比31.8%上昇の58.04ドル(月収換算で約9,300ドル)と、当然ながら全米1位の座を維持。米国全体にあたる同4.5%上昇の21.21ドル(約3,400ドル)を2倍近く相当します。ちなみにニューヨーク州NYですら、同4.2%上昇の31.48ドルでした。確かに、2016年当時のNY住宅市場と比較してもマリン郡の高騰ぶりは目を見張ります。
HUDは家賃負担の適正水準を所得の30%とし、同水準以上を家賃負担過剰と判断しています。ゴールデンゲート・ブリッジを挟んでマリン郡の向かい側にあるサンフランシスコ市内の場合、2016年の家賃負担過剰は38.8%でした。全米の49.7%を下回るとはいえ、4割近くが家賃負担過剰という状況では、10万ドル付近の年収でゆとりのある生活を満喫できないことは想像に難くありません。
(カバー写真:Eye of Kiltron/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年7月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。