よい報道に贈る依存症報道「グッド・プレス賞2017」

田中 紀子

昨日(7月5日)は、依存症問題の正しい報道を求めるネットワークによる「依存症報道グッド・プレス賞2017」の表彰式でした。

会場には120名を超える方にお越し頂くことができ超満員!となりました。
有料イベントにも関わらず、本当に有難うございました。

このグッドプレス賞は、依存症の当事者・家族にとって助けになる報道、応援となる報道が増えていって欲しい!という願いから創設したものです。

ですから私たちからお送りさせて頂く「感謝状」といった意味合いを持っております。

表彰させて頂いたのは、以下の方々です。

【新聞部門】
・信濃毎日新聞社「つながりなおす 依存症社会」全67回
ご担当して下さった3名の記者さんのうちお二人にお越しいただきました。

稲田記者

河田記者

こちらは、67回という大連載だったため、2018年度の科学ジャーナリスト賞の大賞などの賞にも輝き、各方面で絶賛された取組みで、単行本化もされました。

この取材のすごいのは全国の精神保健センターさんにアンケート調査をして下さっているんですよね。
私も取材して頂きましたが、まだお読みでない方是非ご一読下さい。

依存症からの脱出・つながりをとりもどす(アマゾン))

「連載が始まった途端に、うちもそうだったという声が届いた。」という稲田記者の言葉を聞き、
やはりメディアの力は大きいなぁと実感。

また河田記者が

「こういったメディアの賞は色々ありますが、当事者、家族から賞を頂いたということは嬉しい」

「辛いお話しを聞かせて下さった皆様の想いに報いたいという気持ちがあった。」

とおっしゃって下さり、こちらも報われる思い、そしてとても嬉しく思いました。

・読売新聞大阪本社「関西発: 伴走記 アルコール依存症の現場から」全26回

記事を書いて下さった、上村記者とインタビュアーの今成さんとの心温まるツーショット。

実は、上村記者は我々の仲間です。
この伴走記は亡きお父様がおそらくアルコール依存症であったであろうということで、連載の冒頭は、
「うちの父はアルコール依存症だった」という上村記者の告白から始まります。そして最終回では「できれば封印しておきたかった父の記憶。筆は終始、重かった。でも今は――父を赦すことができたように思う。この連載は、父との伴走でもあった」という言葉でしめくくられています。

この記事、ネットで読むことができますので是非ご一読下さい。

伴走記 アルコール依存症の現場から

上村記者ご挨拶の中で、
「自分の想いをぶちまけて書いてしまおう、だからこそ伝わることもあると思った。」
「この企画反対は殆どなかった。唯一反対したのは僕の母でした。」
とおっしゃっており、これは我々家族としてもその複雑なご心中察して余りあるものがありました。

・日刊スポーツ 「喫緊の課題!ネット&スマホ、薬物依存」全31回

こちらはもう爆笑に次ぐ爆笑!文化社会部長さんの超ド級のご挨拶で、「まさかタイトルをとるような新聞じゃないんですよ。マスゴミって呼ばれてるんですよ~」の一言から始まり、会場は大盛り上がり。

「日刊スポーツの良心と呼ばれている社会面、うちの新聞はそこしか良い事書いてないんですけど、そこが実は結構読まれていて、やめられない。やった甲斐がありました~!」という元気いっぱいのご挨拶を頂きました。

けれどもこの記事、ブラックユーモアに反して、内容はライターのしんどうともさんがきっちりと、
薬物問題は犯罪ではなく健康問題として扱うべきというWHOの指針、薬物報道ガイドラインも伝えて下さっています。

こちらもネットで読めますので是非ご一読下さい。

喫緊の課題!ネット&スマホ、薬物依存/連載一覧

【ラジオ部門】
・TBSラジオ「荻上チキ・Session-22 薬物報道ガイドラインを作ろう!」

こちらはギャラクシー賞もとった番組。
パーソナリティ・荻上チキさんの案を叩き台に、当会発起人らやリスナーと共に「薬物報道ガイドライン」の案を作る試みでした。

表彰式には荻上チキさん、プロデューサーの長谷川裕さん、ディレクターの金井渉さんにお越しいただきました。

このガイドライン作成のきっかけですが、チキさんはもともとメディア論を学ばれていて、色々な社会問題に興味がおありになった。そして自殺対策のガイドラインについてご存じだったそうなんですね。

でもってある芸能人のバッシング報道がひどかったことから、その件を番組で松本先生とお話しになっているうちに、
「自殺のガイドラインがあるように薬物報道ガイドラインを作ろう!」ということになったんです。

そこで我々のネットワークもガイドライン作成について協力させて頂いたのですが、
すごいのはその作成をリスナーさんを交え番組内でやったことですね。こちらでご覧いただけますが

【音声配信・書き起こし】「薬物報道ガイドラインを作ろう!」荻上チキ×松本俊彦×上岡陽江×田中紀子▼2017年1月17日(火)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」平日22時~)

その斬新さに私たちもびっくり仰天したものです。

でもプロデューサーの長谷川さんやディレクターの金井さんによると
「うちの番組チキさんからの無茶ぶりで、どうやったら面白くなるかなぁ~と考えてやるんこと多いんで~」
と実はこの手法が日常茶飯事なのだそうです。
確かに、私も時々番組拝聴してますが、この番組の瞬発力はホントすごいな~といつも敬服しております。

さらに、チキさんから会場でも嬉しい無茶ぶりがあって、このグッドプレス賞を受賞した皆様方を、番組にお呼びして経緯などをお話し頂こう!とのこと、長谷川さん、金井さんも即OKして下さり、わぁ~実に嬉しい企画です。

早速、本日の番組でも触れて下さっていますので、是非ご視聴下さい。
【音声配信】『薬物報道ガイドライン』で「グッド・プレス賞」を受賞しました!▼2018年7月4日(水)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」)

【TV部門】
・Eテレ ハートネットTV「シリーズ・依存症」
ギャンブル依存症・クレプトマニア(窃盗症)・〝依存症”~家族はどうすればいい?
と4日連続で依存症をテーマに取り上げて下さいました。

今日は、番組のイケメンアナウンサーの中野さんがお越し下さったのですが、

「ハートネットTVとしては、僕の前のからずっと取り上げてきているが、
NHK全体としてもまだまだ依存症について、理解されていないし、足りていないし、
僕自身もこの番組をやる前は、依存症ってピンと来ていなかった。
でもやってみて他人事ではないとわかった。
なので、今はこの問題を他のアナウンサーにも積極的に伝えていきたいと思っている。」
とおっしゃって頂きました。

【雑誌部門】
・Number 清原和博「告白」
編集部から鈴木忠平さんにお越しいただいたんですが、
実に率直なお話しを頂きました。

「執行猶予中の方を扱うのはどうか?という反対意見も社内にはあった。けれども絶頂の後、こういう経験をされたかたを扱うのも、スポーツメディアの使命ではないかということで、決断して連載がスタートした。」
「この賞の話を頂いた時に編集長と悩んだのは、私たちは医学的な見地や社会問題として、依存症を扱おうとしてこの連載を扱ってきておらず、清原さんに人間的な関心があった。今どんな思いでいるのかということに興味があったので、ここにいる皆さんとはアプローチの仕方が違うのかな、この賞を頂いていいのかな?という思いはあった。」
「逆にこの企画をどう受け止めているのか教えて頂きたいと思って賞を頂こうと決めた。」
とのことでした。

私たちからしてみると、この人間的なアプローチこそ価値があってですね、清原さんを人間失格ではなく、そして社会から抹殺するのでもなく、まさに今を生き抜こうとしている、生身の人間として扱って下さったこと、そして再起を願う、ダルビッシュさんら周りの人達のエールと共に、記事を書いて下さったことに、大きな意義を見いだしております。

初めての試みでしたがやってみて、皆さんの想いがわかったこと、また、メディアの報道による反響が大きい事、なによりも様々な葛藤や、反対意見の中でもこの依存症という難しいテーマに挑んで下さっている、メディアの方々に対し、改めて感謝の念が湧きました。会場でもメディアの皆様との一体感が感じられました。

私たちの側も、メディアの批判ばかりしていても、それは1ミリの進歩にもつながりません。
やはり、我々の側に変えて欲しいことがあるのなら、それを創意工夫を持って「どうやったら私たちの想いを汲み取って頂けるのか?」試行錯誤をすべきと思っています。

そしてこのグッドプレス賞はその一助として、やってよかったなぁ~と思いました。

今後もこの「グッド・プレス賞」毎年続けていきたいと思います。
是非、皆さんもよい報道があったら情報をお寄せ下さい。

表彰式の模様、引き続き次回のブログでも書かせて頂きます。


編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年7月5日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。