さて、全国的に記録的な猛暑です。皆さんいかがお過ごしですか?
真夏の気温が40度近くなるこの国で、陸自のAFVの殆どにクーラーが装備されておりません。
クーラーは贅沢品ではなく、乗員の体力保持のため必要ですし、CBRN環境下で車体を密封するのであれば
不可欠です。この炎天下でクーラーがなければ30分も活動できません。
さて以前から問題になっている、最新型戦車である10式戦車にクーラーがあるのか、無いのかという議論です。
未だにあると信じている人たちの論拠はニコ動あたりで公開された三菱重工関係者の乗員用のクーラーはあるという発言です。
ぼくは何度も機器冷却用のクーラーは存在しないと申し上げてきました。
以下の記事のコメント欄でも議論になりました。
以下の記事は技本(当時)の10式開発関係者のインタビューです。技本高官含んだ約8名の担当者が同席し、書いた原稿は技本側でもチェックしています。ですからぼくの思い違いはありません。
新戦車には市販品を転用したクーラーが装備されているが、これはあくまで電子機器を冷却するためのもので、乗員はその恩恵に預かれない。なおクーラーは10式戦車では変更される可能性があるとのことだ。乗員用のクーラーがオミットされたのは価格低減のためと、補助動力装置の極小化のためだろう。補助動力装置が小さくなればこれの調達価格も当然低く抑えられる。乗員用クーラーを搭載すればその分重量はかさむし、補助動力装置も大型化しその調達価格も高くなる。だが乗員用クーラーを搭載していないために夏場のNBC環境下において新戦車は30分ほどしか活動できないだろう。これが果たして夏場には35度を超えることも多々ある「我が国固有の環境」に適しているのだろうか。
この部分が間違いであれば、技本革が原稿のチェックレベルで物言いをしているはずです。それはありませんでした。つまり技本がみとめているということです。
そして念のために陸幕広報室にも確認しました。量産型で変更があった可能性も考えたからです。
ところが、広報室からの回答も乗員用クーラーは存在しないというものでした。
では三菱重工の社員が嘘をついているのか?
でなければ技本や陸幕が嘘をついているか?
また10式の開発に関わった機甲科OBも乗員用クーラーはあると仰有っておりました。
いずれの関係者も嘘をついても何のメリットもありません。嘘がばれた時のダメージは極めて大きいものになり、責任も問われます。
実は誰も嘘をついていなかったのです。
実際に技本や陸幕の要求では機器冷却のためのクーラーは入っていましたが、乗員用のクーラーは入っておりませんでした。
ところが開発時に三菱重工と機甲科OBらは乗員用クーラーがないのは時代錯誤だと考えていました。そこで、自分たちのできる範囲で、機器冷房用のクーラーの冷気が多少乗員にも当たるように設計されました。
だから三菱重工側の認識は「乗員用クーラー」は存在するというものなのでしょう。つまり、グレーゾーンの所を開発側の裁量で多少色をつけたということろです
ですから、乗員は多少の恩恵にあずかっていることになります。ですが、あくまでも余録であり、本格的に車内を冷やすだけの出力はありません。それをやれば発注者の仕様を勝手に書き換えたことになるし、出力も、消費電力もより多くなり、補助動力装置も大型にする必要があったわけです。そうなればコストも重量も大きくなります。諸外国の戦車のクーラーのサイズをみればそれはわかります。
そして実際に現在、10式にイスラエル軍が採用している、乗員ダクトで冷気を流す冷房システムの導入が検討されているようです。
■本日の市ヶ谷の噂■
陸自のAH-X改め、NAX(新型攻撃/武装ヘリ)コンペでは8社が名乗りをあげ、RfIに情報提供との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年7月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。