参議院の定数を6増やす公選法の改正案が18日、成立した。人口減時代に合わせて定数削減の流れが進んできた中で、参院の定数が増えるのは沖縄の日本復帰に合わせた1970年以来の「珍事」。合区に伴って選挙区からあふれ出た議員の身分救済が目的なのはあきらかで、自民党内でも都市部選出議員を中心に本音では反対の議員たちも少なくない。その一人で、採決での動向が注目された小泉進次郎氏が、あっさりと「白旗」をあげて党議拘束に従ってしまった。
これには、小泉氏の国会改革構想に協力的だった維新や国民民主などの野党からも批判が噴出。維新でも下地幹郎氏などは怒りが収まらず、深夜にSNSに投稿を連発した。
「棄権」というオプションすら放棄
とくに下地氏を怒らせた小泉氏の「コメント」というのは、採決後に報道陣から議場でブーイングを浴びたことを問われた際に「名誉のブーイング」などと開き直りともとれるような発言をしてしまったことだろう。これまで小泉氏の国会改革構想を何度か書いてきた筆者も、まったく同感だ。
小泉氏はまだ若く政策での実績が少なくても、政界随一の発信力を武器に世論を動かそうと思えばできるだけの選択肢がある。ところがこの「勝負所」でそれを行使しなかった腰砕けぶり。おそらく協力的だった野党の議員もそうだろうが、期待していた分の失望が大きい。彼が行動すれば、若手を中心に同調する動きが出ていたかもしれない。
もちろん、これからも続く政治キャリアにおいて、ここで勝負をせずに、自民党の若手議員たちと取りまとめた国会改革提言や、超党派でまもなく正式に出す衆院改革案を「平成のうちに」実現するために、ここは一歩引いたつもりなのだろう。
しかし、改革案がどんなに優れたものであっても、国民はもちろん、同志になりうる超党派の政治家たちは、最後にはその改革案を推進する政治家の胆力、本気度、人間性を見極めるものだ。野党と同調して反対までしろと迫る議員は、さすがに、立憲民主より物分かりのよい維新や国民民主には少ないだろう。せめて議場を後にして「棄権」するという選択肢もあったのではないか。
もちろん、そんなことをすれば一罰百戒で、今回、ほんとうに棄権という行動に出た船田元氏とともに冷遇されるだろう。無位無官がしばらく続くどころか、影響力が大きいだけに見せしめとばかりに、安倍体制が続くかぎりは、党員資格停止など「座敷牢」状態とばかりに徹底的にいじめられ、居場所をなくしてしまうかもしれない。当然、ここまで出してきた国会改革の提言は一度お蔵入りになる。逆説的だが、国会改革の肝である自民党の事前承認制、党議拘束の「理不尽」さを、身を以て国民にしらしめる一大チャンスだったが、それを逃してしまった。
誰もできないことをできるのにやらない
しかし、安倍体制は最長でも2021年9月までだ。地元・横須賀で絶大に選挙に強く万が一、公認をもらえなくても落選の心配も皆無。だから、国民がみているのは、政治家として信念を貫くだけの人間性が備わっているのかどうか、平成のうちであろうが、その少し先であろうが、本当にやりぬいて自らの政策を実現するだけの本気度があるかどうかなのだ。安倍時代の残り期間、冬の時代が続いたとしても、ぐっとこらえて実力を蓄えればよい。その間、理想に燃えて努力する姿をみて、応援する人は応援する。
落選はありえず、世論を味方につけられるだけの発信力があれば、「与党内野党」で正論をはきつづけ、実力と同志をじわじわと増やすという、ある意味、ほかの政治家が羨ましくなるような唯一無二のオプションがあっても、いまの小泉氏には、それを行使するだけの胆力がまだ備わっていない、傷つくことを恐れている部分が残っていることが露見した。
筆者は多少の経験不足には目をつぶって期待をし、安倍首相のシンパたちが「実力不足のパフォーマー」「安倍総理の後ろから弾を打つやつ」などと厳しく非難しても小泉氏のことを温かく見守るつもりだった。だが、今回ばかりは擁護できない。
徳川慶喜のような撤退戦のリーダーにはまだ遠い
八幡さんが以前、厳しく論評していたこともあったが、社会経験や人生経験の不足から来る「弱さ」のようなものがまだ見える。ブーイングのことを問われた際にも沈黙を貫くなり、男泣きの芝居をするなりといったマリーシアもない。
皮肉なもので、20年前にスキャンダルで転落した「元プリンス」船田氏のほうが、現役プリンスよりも実は政治家として信念を貫く強さがあったことに驚いた国民も少なくないのではないか。
小泉氏が宰相の座に近づく2020年代後半以降、日本がさまざまなところで「撤退戦」を強いられるなかで、国民にウケない壮絶な政治決断を強いられた際、逃げずに貫けるのだろうか。「体制内改革者」のホープのように評されることもあって、兄の孝太郎さんが大河ドラマで演じた最後の将軍、徳川慶喜を重ねてみることもあったが、大政奉還、江戸城無血開城をはじめとする「撤退戦」の一大決断をするには、まだ精進する必要がありそうだ。