人工知能を賢くするにはデータというエサが必要だ⁈

内閣府の「AIホスピタル」プロジェクトのディレクターに指名されて3か月が経過した。「AI=人工知能」で思い描く「人工知能」があまりにも多様で日々驚くばかりだ。

私は、周辺の医師や弟子たちとの会話から、医療現場での補助機能や最先端医療・医学の教育システムとしての人工知能を重要と考えていたが、多くの人は、データベースからAIは始まると思い込んでいるようだ。大腸がんの増加を背景に、空間を認知しながら、安全に素早く大腸内視鏡を自動的に盲腸まで誘導するAIなど重要だと思うが、どうもかなり突飛な発想のようだ。

こんな状況下で、多くの情報を入手しようと思って、AIの講演会に参加した。その場での「AIを賢くするにはデータというエサが必要だ。日本ではデータを抱え込んでいるので、餓死して、ガラパゴス化している」という言葉が印象的だった。「データを抱え込んでいる」のは同感だが、毒を含んだエサを食べたら、中毒になるのではと思った。情報系に人には、生み出されるデータが毒を含まず、すべて栄養になると信じているようだ。私も、もっと素直にならなければと思うが、この世界に生きるとひねくれてしまうようだ。

医療をより良いものにしていくためには、多くの患者さんの正確な医療情報やゲノム情報を収集することが不可欠だ。米国ではネットを通して個人から膨大なデータを収集しているし、民間の医療保険企業も医療情報を収集し、それに独自でゲノム解析を上乗せしている。日本では、医療情報などを国が収集することに懐疑的な声が大きく、なかなか進まない。また、電子カルテシステムから情報を収集するのも結構大変だ。各社の利用しているシステムが異なるのでデータ収集は一筋縄でいかない。

ゲノムに関しては、全エキソン解析にはデータを保管する場所がなく、解析するコンピューティングが不足だなどという驚くべきレベルの議論をしている。研究者が個人レベルでする話でも、一研究機関がどうするのかという話でもない。国の中長期的なビジョンの中で議論すべきだが、各省庁に、そして、各部局、各課で確保されている予算だという固定観念や前提に基づいて議論されるので、一定の枠を超えるようなプロジェクトを組み立てることができない状況になっている。

セミナーでの、「2029年には人工知能が一人の人間の知能を超え、2045年には全人類の知能を合わせても人工知能に勝てなくなる」という予測を聞かされた時には衝撃だった。人工知能が暴走すると、人類の存在そのものが脅かされそうだ。Googleでは萌えキャラとの会話できるようになっているので、引きこもりが増えるのではないか?は冗談の話ではなく、リアルワールドの話だそうだ。

中国では膨大な物流システムに人工知能が運用されている。農業では人工知能が自動的に間引きを行い、人工知能がドローンを使って農薬を散布する。8Kになると人間の目の解像度より高くなり、外科手術を人工知能がロボットを使ってするようになるのは、SFの世界ではなくなってきている。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。