知財戦略ビジョンと知財計画2018

首相官邸にて安倍首相以下閣僚が並ぶ知財戦略本部が開かれ、知財戦略ビジョンと知財計画2018が決定されました。
ぼくは知財本部の検証評価企画委員会の座長として参加しました。

知財戦略ビジョンは2013年版に続く第2回となります。
前回はデジタル化からスマート化への移行をにらんだものでしたが、今回はSociety5.0、AIとIoTを主眼に据えています。
SDGs:少子高齢化、環境エネルギー等の社会問題も背景としています。

ビジョンは「価値デザイン社会」を標榜し、知財は独占・交換・保護から共有へと位置が動くことを説きます。

そして、1.脱平均とチャレンジ、2.分散と融合、3.共感・貢献経済を切り口として、価値創造人材育成、SDGsの知的資産プラットフォーム、次世代コンテンツ創造・活用、クールジャパン外国人集積などに取り組むこととしています。

ビジョン調査会はYahoo!安宅和人さん、ATカーニー梅澤高明さん、魔法使い落合陽一さん、冨山和彦さん、カドカワ川上量生さん、ロフトワーク林千晶さんらが参加し、従来の政府委員会にないタブー無視の論議を進めたことが最大の意義でした。

調査会は継続し、ビジョンの見直しも行います。

知財計画2018は知財戦略ビジョンも踏まえて検証評価企画委員会でとりまとめたものです。
主要事項は下記。

1.人材育成
知財・クールジャパン人材育成
2.挑戦創造促進
コンテンツクリエイションエコシステム
海賊版対策強化
3.新分野デザイン
データ・AI等新情報剤の戦略強化
著作権システム構築

ぼくのチェックポイントを4点挙げますと、

1)「知財・クールジャパン人材育成」に「専門職大学制度の運用」が掲げられたこと。
企業連携を重視するプロフェッショナル大学の制度が始まります。
ぼくが設立を進めるi大もその一つ。活かしましょう。

2)「コンテンツクリエイションエコシステム」に「eスポーツの発展のための環境整備」が掲げられたこと。
ようやく日本でもeスポーツが本格離陸時期を迎えるに当たり、政府がその意義を認め、発展のために取り組むと位置づけたことは大きい。

3)海賊版サイト対策強化策を明記したこと。
有識者・関係府省の検討の場を設け、権利者・事業者等とも連携しつつ、正規版等の流通の在り方を含む海賊版対策について、法制度整備や論点の検討等を含む今後の対策の在り方や方向性を総合的に検討する、としています。

海賊版サイト対策は4月にブロッキング等に関する緊急措置を政府決定し、それが賛否の議論を巻き起こしました。問題の海賊版サイトは見られなくなるとともに、収入源の広告対策も進むなど事態は大きく変わっており、問題のブロッキングも行われてはいません。その上で次なる対策に乗り出すという状況です。

4)ブロックチェーンを活用した著作物の管理・利益配分の仕組みの構築のための検討を行うと記したこと。
著作物の流通・利用は著作権法制度に偏重してきた政策が、テクノロジー主導に変わるかもしれない。重要な一里塚です。

官邸での会議でぼくは3点コメントしました。

1)この国会で、ネット時代に対応した著作権法やデジタル教科書を制度化する学校教育法の改正が成立するなど、知財計画で記載した事項が実行に移されています。コンテンツの海外展開も成果を上げています。

2)海賊版サイトに関しても、4月の緊急対策の決定後、問題のサイトは見られなくなる一方、国民の問題意識も高まりました。早急にタスクフォースを立ち上げて、さらなる対策に向かいたいと考えます。

3)しかし、Society5.0やSDGsなどの新しいテーマは知財戦略の変更も求めます。知財政策とIT政策の連携もますます重要になっています。今回とりまとめたビジョンを踏まえて、政策のバージョンアップをお願い致します。

関係閣僚からは、データ流通環境の整備、海賊版対策の強化、新著作権法制度の運用といった重要ポイントが指摘されました。

データ流通や海賊版対策など知財問題は省庁横断で対応するテーマが満載。内閣を挙げての取り組みを願います。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年7月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。