2017年2月6日、岡山家庭裁判所津山支部で、生物学的には女性として生まれたが、心理的には男性である性同一障害の審判申立が却下された。
申立人は、生物学的には男性であるものの、女性とその子供の三人で暮らしており、当該女性との婚姻届を提出したが不受理となった。
婚姻届が不受理となったのは、戸籍上申立人の性が男性に変更されていなかったことが原因だ。
変更するための審判の要件として「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態であること」であると「性同一障害者の性別の取り扱いの特定に関する法律3条4項」に規定されており、この規定が不合理でないと裁判所が認めた。
同法同条に定める性別の取り扱いの変更の審判の要件は、以下の5つだ。
1 二十歳以上であること。
2 現に婚姻をしていないこと。
3 現に未成年の子がいないこと。
4 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
5 その身体について他の性別に係わる身体の性器に係わる部分に近似する外観を備えていること。
本裁判所の争点となった「生殖腺を永続的に欠く状態」にするには、申立人はホルモン治療だけでなく、卵巣摘出手術と子宮摘出手術を受けなければならないとガイドラインで定められている。
ここまで厳しい要件を課しているのは、戸籍上の性別を男性に変更した後、子供が生まれると様々な混乱を生じるという理由からだ。
しかしながら、普通の夫婦関係にあっても、生まれた子が夫の子だという保証はない。
夫の子でなかった場合は嫡出否認が可能だが、これとて「子の出生を知ってから1年以内」という厳格な制限が課されている。
英国のとある研究者によると、夫の約1割が他人の子を自分の子と信じて育てているとのことだ。
このようなご時世において、性別の変更のために卵巣や子宮の摘出手術まで受けなければならないという法律の規定には疑問を覚える。
同性婚を認めるべきだという主張が昨今なされているが、女性同士の同性婚には常に同じ問題がつきまとう。
現行法上、婚姻関係にある者の一方が子を出産した場合、(通常の場合は)嫡出推定がなされて夫婦間の子ということになる。
子の身分の安定のため、嫡出否認には先述した極めて厳しい期間制限がある。
女性同士の同性婚が認められ、その一方が子を出産した場合、子の身分の安定のため(女性同士)の夫婦間の子としなければならないのか?
子の身分の安定が重要だと(最高裁を始めとする)裁判所は常々判示しているが、身分の安定が必ずしも「子の福祉」に資するものではない。
無理矢理早期安定をさせられたため、血縁関係のない親から虐待を受ける恐れすらあると、私は危惧している。
法も裁判所も、もう少し柔軟な規定変更や対応ができないものかと思う、今日この頃だ。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年8月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。