ヨドバシカメラEC配送料ゼロ円成功の理由

酒井 直樹

Wikipediaより:編集部

ダイヤモンドオンラインの記事「ヨドバシ・ドット・コムが送料無料を貫いても大成功している理由」には色々考えさせられることが多い。

家電量販店大手ヨドバシカメラのEC事業「ヨドバシ・ドット・コム」が好調だ。2017年3月期にはEC売上高1000億円を突破し、全体の売上高構成比15%を超えた(店舗事業も合わせた売上高は6580億円)。

同社の評判はかねがね聞いていたが、実店舗とイーコマースの融合、オムニチャネルが世界でも日本でもなかなか上手くいかない中で大成功を収めている異色の存在だ。同社の特徴はボールペン一本、50円でも送料無料という明快さにある。アマゾンですら、年会費を払ってプライム会員になっても送料無料にならない場合もある。

同記事によると、店頭と比較すると、1点当たりの単価は低いものの、買い上げ点数は多いそうだ。金額ベースでは家電がいちばん高いが、販売数ベースでは日用品、食品が最も売れている。

販売量は、日用品、食品は昨対で180~200%のペースで伸びていて、在庫を持てば回転するといういい循環ができているそうだ。水やトイレットペーパーなど、重かったり、大きくて持ち運びが大変な商品は特に人気だそうだ。

食品はもっと品ぞろえを強化しなければいけないと考えています。早く、一般的な食品スーパーのカバー率を超えたいと思っています。

セブンイレブンですらオムニチャネル化に苦労しているのに、この成功は異色だ。

本来なら、送料無料は、巡り巡って店舗に足を運び等価で商品を買う顧客からの価格転嫁であるとも言える。ところが以下が実態とのことでビックリした。

──利益面についてお伺いします。17年3月期の経常利益は556億円で、売上高経常利益率は約8.4%と、業界トップクラスの水準です。EC事業の利益率は店舗事業と比べるといかがですか。

基本的には、店舗よりもオンラインのほうが利益率は高いです。自社配送を外部委託よりも効率的に運営できていることが、送料をすべて無料にしても高利益率を維持できている要因の一つです。

僕が思うに、これはいくつかの日本の現況の特殊な要因によるもので世界では通用しない。

第一に、日本人は悪いことはしないという「性善説」があること。これが、外国だったら50円でも送料無料なら、安い商品を頻繁に買う「悪い人」が登場してこの商売は成り立たないはずだ。だからグローバルスタンダードのAmazonは無料に縛りをかけている。実際には、日本にもそのような顧客が極少数いるのだろうが、多くの人は「送料無料は悪いから、たくさんまとめ買いしよう」となって売り上げが上がるのだろう。良心を前提としたビジネスモデルだ。

第二に、配送に携わる労働者を上手く、安く囲い込んでいるのだろう。しかし、今後とも持続可能とはとても思えない。まずそのような単純労働力の賃金が上がっている。ある意味で少子高齢化で限られた労働力の無駄遣いだ。

第三に、ボールペン一本を車でいちいち配送していたら二酸化炭素排出量が上がる。

第四に、公共財である道路を非効率に占有するので渋滞を引き起こす。そのコストは外部化され納税者につけ回される。

それにしても考えさせるのが、根本原因として「サービスゼロ円」という異様とも言える「お客様は神様」という慣行だ。コンビニで怒鳴り散らして店員に土下座を強いるモンスターカスタマーにも通底する。

ボールペン一本無料配達というのはどう考えても正義ではなく、客を甘やかしすぎだと僕は思う。